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セルフレポート・台北サウンドアートシーンを解剖!“失聲祭 meets 住み開き!” at UPLINK FACTORY

会場内、右から山本佳奈子・アサダワタル氏。

Skype中継中のスクリーン画面内、真ん中がYAO, Chung-Han。

右前が王仲堃(WANG Chung-Kun)。

スクリーン画面内左後方に並ぶのが失聲祭を実際に運営するスタッフたち。

 

Offshoreのシリーズ企画第1弾『“台湾のサウンドアートイベント『失聲祭』を見る” meets 住み開き! 』が2011年1月31日、UPLINK FACTORYにて終了。

 

参考記事:アップリンクでOffshore連続企画。第一弾は台湾サウンドアートイベント失聲祭meets住み開き!

http://www.offshore-mcc.net/news/224/

 

日本語で紹介されることのなかった台北のサウンドアートの今に迫るイベント。ご来場いただいた皆様に感謝を申し上げるとともに、さらにこの記事をアーカイブ資料として楽しんでいただきたい。また、ご来場頂けなかった方には、あの謎のタイトルのイベントはこんな内容だったんだ、と、少しでも台湾のサウンドアートシーンに興味を持っていただければ嬉しい。

 

ちなみに第2回目は2012年4月11日(水)、UPLINK FACTORYにて『アジアでライブをする方法』と題してアジアのインディーズ音楽や現地でのライブ環境についてトーク。ゲストに、今アジアで最大の人気を誇るポストロックバンドtoeの山嵜廣和氏、香港・韓国でのライブを自ら制作・敢行したkowloonの中村圭作氏をお迎えする。

 


 

山本佳奈子(以下、山本):本日は皆さんお越し頂きありがとうございます。私について軽く紹介します。私はOffshoreというサイトを運営していて、アジアのアンダーグラウンドカルチャーやアートについて紹介しています。今、アジアのカルチャー情報は日本語ではほとんど紹介されていません。日本のガイドブック『地球の歩き方』ではほとんど現地のアートやカルチャーには触れられていないんですが、実は欧米人が読むガイドブック『Lonely Planet』では、現地のライブハウスや小さなアートギャラリーの情報が載ってるんですよね。どうして日本が別世界なんだと思い、日本語でアジアのそういったローカルなアート・カルチャー情報を紹介することにしました。

 

アサダワタル(以下、アサダ):アサダワタルと申します。関西在住ですが全国各地で音楽を演奏したり表現者の場づくりに関わったりしています。僕自身もアジアに興味がありますが、まだアジアでそういったシーンを見たことはないんです。アジアで映像や音を含めた表現の場づくりをしている人がいるということに非常に興味を持っています。

 

失聲祭とは…

 

山本:まず、失聲祭=ラッキング・サウンド・フェスティバルというのは、台北で月1回行なわれているサウンドアートのイベントです。中国語読みで「シーシェンチー」。英語ではLacking Sound Festivalと言います。

※イベント内では『失聲祭』を『ラッキング・サウンド・フェスティバル』と一貫して呼んでいましたが、当記事では『失聲祭』と表記します。

毎回2組のサウンドを用いたアーティストがパフォーマンスし、観客は平均して40名ぐらいが訪れます。オーガナイズするのは台北在住のサウンドアーティスト達です。私が最初に失聲祭に行ったのは昨年の5月。南海藝廊(ナンハイ・ギャラリー)という小さなアートギャラリーで行なわれています。UPLINK FACTORYの3分の2ぐらいの広さです。このイベントの特徴のひとつは、アーティストトークが必ず設けられているという点です。オーディエンスからも鋭くたっぷりと質問が飛んできます。情熱的なディスカッションが繰り広げられて、大学でいうゼミに似た場。アートに関わりたい人が、自分が何かを表現することはどういうことなんだろう、と考えにきている場でもあると思います。こんなイベントって日本にあまりないと思うんですよ。アートにおける会話がもっと繰り広げられると、このとっつきにくい“アート”という言葉に、様々な人がアプローチしやすくなるかな、と、台北の失聲祭を見て感じました。さっそく、失聲祭のビデオを見ていただきます。

まず、まだ20代前半のアーティスト、WU Ping Shengです。

 

 

山本:彼はドライヤーをデバイスとして使っています。ギターのピックアップをドライヤーにくっつけて、エフェクターやフットスイッチを使っています。音源は使っておらず、ドライヤー音だけが拡張されていきます。

ー中略ー

今から見せる2つは、中堅の2組、30代前後のアーティストです。

 

失聲祭53回目 / Traffic Jam

 

 

失聲祭54回目 / Mr.Matrix

 

山本:オーガナイザーのひとり、YAO, Chung-Hanは、いまや台北を代表するサウンドアーティストです。

彼の代表的な作品は蛍光灯・レーザー・ノイズサウンドを使ったパフォーマンスなんです。彼は筋トレマニアで(笑)、とてもユーモアのある性格です。私のオススメは、彼の心音を使ったパフォーマンス。ステージ上で腕立て伏せするんですよ。

 

 

アサダ:確かに良い筋肉してますよね(笑)。

 

山本:彼は兵役の後、身体を作ることに目覚めたらしいです。彼が面白いのは、簡単なwebサイトなら自分で作るし、失聲祭のみならずいろんなアートイベントのオーガナイズもするし、アーティストとしてだけでなく裏方の動きもしているんですね。アサダさんもアートマネージメントやディレクションをされていたりしますよね。

 

アサダ:そうですね。あとトークイベント等も開催していました。僕が共通して面白いなと思うのは、肩書きがわからなくなってしまうぐらい、既存のクリエイティブの枠を超えて活動している人たちです。失聲祭と照らし合わせて言うと、表現やクリエイティブと、場づくりと、ディスカッションは、並行して存在するものだと感じます。そういえば僕はCreation goes onというイベントを大阪で昔企画していて、それはアーティストや参加者が作品をプレゼンしてトークを行なうというものでした。実は日本でもこういった流れがあっては消え、あっては消え、と、まったくないわけではないですね。

 

山本:アサダさんのバンド、SJQ(Samurai Jazz Quintet)の映像も見てみましょうか。

 

 

アサダ:僕がドラムで参加しているバンドで、HEADZからリリースしています。映像は土谷享さんに制作していただきました。SJQリーダーの魚住勇太は自分でサウンドプログラムを作っていて、そのプログラムのルールと音が重なったときに初めて楽曲になる、という手法で作った曲ですね。

 

山本:ではSkypeで失聲祭のオーガナイザーYAO,Chung-Hanやスタッフたちと繋ぎます。

まず最初に質問したいのは、どうして失聲祭は始まったの?

 

YAO, Chung-Han(以下、YAO): 最初は2005年頃、今日隣にいるアーティスト、王仲堃さんと小さいイベントを始めました。僕たち2人はクラスメイトで作風も少し似ています。小さいイベントから始めて、失聲祭となり、今も続けていて、本当に長い間やっています。

 

ー中略ー

 

アーティストトークについて

 

山本:アーティストトークを必ず設ける理由は?

 

失聲祭staff:2008年頃、YAOさんの後輩が失聲祭でアーティストトークを始めたのがきっかけです。

 

YAO:僕自身アーティストとして、アーティストトークは重要です。人の考え方はみんな違うから、いろんな考え方を知ることは大事です。もし自分の考えだけしか知らなければ、それはすごく残念なことです。

 

山本:YAOはアーティストでありながら、大学講師やイベントオーガナイズを器用にこなしているけど、バランス難しくない?

 

YAO:これは自分の使命だと思ってます。自分がやらなければ、たぶん他の人は誰もしないと思います。

 

山本:ちなみにアサダさんもYAOと同じく大学講師やオーガナイズなどに関わっています。

 

アサダ:では僕から質問を。失聲祭が始まる前の台北のシーンには同じようなイベントはありましたか?

 

失聲祭staff:今も昔も失聲祭しか毎月こういったパフォーマンスを見せるということはやっていないですね。

 

アサダ:では、今、南海藝廊というギャラリーを借りているとのことですが、新しい場所を自分たちで運営しようという考えはありますか?

 

王仲堃:こういうアートを扱って、支えてくれているのは今、台北では南海藝廊だけです。それが南海藝廊を使用している理由です。将来は、自分たちで場所を持ちたいと考えることもありますが、金銭面や条件が厳しいですね。今はわかりません。

 

UPLINK FACTORYにお越し頂いた方からのQ&A

 

質問1:失聲祭に来ているお客さんはどういう人たちなんでしょう?

 

YAO:アーティストの友人知人、芸大生、あと音楽好きなどが多いです。毎回の失聲祭では2組がパフォーマンスしますが、毎回スタイルが違うアーティストを招いています。なのでその都度、出るアーティストによってお客さんの層も違うかもしれません。常連のお客さんもいますし、初めてのお客さんとリピーターとの割合は半々ぐらいですかね。

 

質問2:YAOさんは建築系の大学で教えられてて、スタッフにも建築系大学の学生がいるとのこと。日本では建築とアートは別々のものと捉えられなかなかクロスオーバーしませんが、台湾では建築系大学の学生がこういったアートに興味を持つことは稀なことではないんでしょうか?

 

失聲祭staff:(YAO, Chung-Hanが教える学生であり失聲祭staffのメンバーが答える。)YAOさんが卒業した建築大学はとても自由な大学です。YAOさんの在籍する建築学科は、「音も建築のひとつ」と考えるので、そういった授業もあるんですよ。YAOさんは今その授業を教えています。

 

アサダ:確かに音の彫刻や音の建築という概念はありますし、そのような授業をしている大学って面白いですね。私からもうひとつ質問を。今、サウンドアートというものを知らない人に対して、こういうアプローチをして広めていこう、という計画はありますか?

 

王仲堃:いくつか考えていますが、ひとつはワークショップ。いろんな人に参加してもらって知識をシェアする。あと、台中や高雄でも、僕たちの友人でこういったパフォーマンスをするアーティストやイベント、オーガナイザーが増えています。こういったネットワークをうまく使っていきたいです。

 

山本:では、そろそろ締めに入ります。私は台湾のインディーズ音楽シーンも調べています。台湾インディーズ音楽シーンは、どうも日本の大きな資本のインディーズ業界を模倣しているようで、シーン自体にオリジナリティを感じないんです。そんなとき、失聲祭という、アーティストが自らたちあげたイベントを見て、しかも毎月1回、続けている。オーガナイザーのひとりも、「どうしてライブハウスでは毎日ライブやってるのに、サウンドアートという分野になるとまったく機会がないんだ」と。私はこの小さなイベントを応援したいと思っています。

 

アサダ:音楽のライブハウスと、こういうサウンドアートの場って、日本でも圧倒的に数が違いますよね。今日は詳しくは聞けませんでしたが、台中や高雄など含めて、どういった都市間のネットワークができていくかが興味深いです。僕個人としては、今ネットワークのできかたに非常に興味があります。僕自身も音楽をやっていると、周りの対バンなどがだいたい同じメンバーになっていくんです。そういう状態のときに、ふとした瞬間に全然関わりのなかったところに自分たちの作品が伝わったりして、また違う場所へ広がっていく。閉じて尖らせていくこと、でも、それが偶然出会えるような環境も同時につくる、ということを同時進行でできれば、と考えています。そういう意味でも、失聲祭の今後がすごく楽しみだなと思います。

 


 

──今後の失聲祭 Lacking Sound Festival──

LSF56 02月17日(金) 出演:柯盈瑜/成文

LSF57 03月16日(金) 出演:葉廷皓/黃大旺 (駐祭計畫)

LSF58 04月20日(金) 出演:Traffic Jam (林育德、紀子衡、劉哲瑋) /王仲堃

LSF59 05月18日(金) 出演:Apple/黃大旺 (駐祭計畫)

LSF60 06月15日(金)出演: 黃聖傑/董昭民

 

 

アサダワタルさん著書『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)発売中です!

“お店でもなく、公共施設でもなく。無理せず自分のできる範囲で好きなことをきっかけに、ちょっとだけ自宅を開いてみる「住み開き」。そこから生まれるコミュニティは、金の縁ではなく、血縁も地縁も会社の縁をも超えたゆるやかな「第三の縁」を紡いでくれるはず。本書では全国の住み開き実践者たちのエピソードを紹介しながら、これからの日本の日常生活における自己表現の未来、無縁社会やソーシャルメディア時代通過後のコミュニティの未来を探ります。本書を通じて一人でも多くの人たちが気軽に住み開きを試したり、自分たちが暮らすコミュニティの価値観をユニークに捉え直すきっかけを作れたら本当に嬉しいです。(著者 アサダワタル)”
http://kotoami.org/