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中国で検閲に通らないインディペンデント映画を日本で見よう!

12月3日より、ポレポレ東中野にて『中国インディペンデント映画祭2011』が開催される。

 

中国インディペンデント映画祭2011 http://cifft.net/

 

上映作品は、今の中国を鋭く描写したフィクションが4本、中国の様々な問題に向き合うドキュメンタリーが5本、長編アニメーションが1本。魅力ある作品ばかりで、10本のうち9本が日本初公開。そして実は、どの作品も中国で検閲を通っていない。ということは、中国大陸内でも見ることができない、貴重な映画ばかりなのだ。

 

今回、映画祭を主催する中山大樹さんに、中国のインディペンデント映画の状況についてお話をうかがった。1996年の北京留学をきっかけに中国にのめり込み、現在は中国を拠点として暮らしている中山さん。直近ではインディペンデント映画の製作を支援する栗憲庭電影基金で活動されていた。

 

※栗憲庭電影基金とは…
中国のコンテンポラリアーティスト栗憲庭が設立した、インディペンデント映画を撮りたい監督やアーティストを支援する基金。北京の郊外、宋荘という村にベースを置き、アーティストが集まり宋荘は芸術家村となったという。芸術により村が発展し、村おこしとなった。美術館も建設され宋荘芸術祭なども行なわれている。

 

気になる作品について詳しく教えていただき、また、現在の中国インディペンデント映画の状況についてもうかがった。映画祭に行く前に読んでいただけると、よりこの映画祭を深く味わうことができるだろう。

 


──北京のMOMAという場所にある映画館、Broadway Cinematheque(以下BC)に行って、開発によって村を追い出される村民を描いた劇映画を見たことがあります。素晴らしい映画でしたが、村から退去させる当局を少し批判的に描いていて、これを堂々と映画館で上映できるのはなぜなんだろうと疑問に思ったのです。

 

中山大樹(以下、中山): 微妙なところですね。BCは中国にいくつかあるのですが、いわゆるミニシアター系の映画を上映するのは北京MOMAのBCだけです。ただ映画館なので、基本的に検閲を通った作品しかできません。

 

──では私が見た映画は、ギリギリ検閲を通過していた映画だったと。

 

中山: そういうことになると思います。MOMAのBCはインディペンデント映画やアート映画に力を入れています。そして中国全土の映画館であの1館だけが、日本で言うミニシアターのような作品を上映している映画館ですね。他にも、アートスペースなどに映画上映できる設備があってアート系映画を上映することはありますが、「映画館」としてアート映画を上映しているのはあのMOMAのBCだけなんですよ。

 

──では今回の『中国インディペンデント映画祭』での上映作品は、検閲は通ってないのでしょうか?

 

中山: 今回選んだ作品に関しては検閲を通っていません。ですので、どの映画も中国の映画館で上映されたことはありません。そして今回のラインナップは海外の映画祭では上映されていますが、今のところ配給がついている作品はありません。

 

──ものすごく貴重な映画祭ですね!

 

中山: そうですね。たぶんうちが紹介しなければ、どこも紹介しない作品だと思います!

 

──ではいくつかの上映作品について、詳しく聞かせて下さい。

 

『日本題』中国題 / 英題 (製作年)

監督名
あらすじ


『ゴーストタウン』廃城 / Ghost Town (2008)

監督:趙大勇(チャオ・ダーヨン)
雲南省の北西部の山中にある、政府によってうち捨てられたゴーストタウンと、そこに勝手に住み着いている少数民族の人々の日常。宣教師父子の衝突や想いが語られる「神の御言葉」、分かれて村を去る男女を記録した「記憶」、気ままに生きる孤児の生活を追った「少年」の3部構成。大自然に抱かれた不思議な町から、人間の本質が見えてくる。

 

中山: 雲南省にあるこの地域では、第二次世界大戦の前にインドシナ半島から西洋人の宣教師たちがやってきてキリスト教を布教しました。多くの人が思い浮かべるキリスト教とは少し違い、現地の少数民族の言葉に訳された聖書や聖歌を持つ土着のキリスト教です。共産党によって禁止され、やって来た宣教師たちは追放されますが、今でもその教えが息づいています。映画の中では、この村の住人でもある宣教師が、当時の苦い経験も語っています。また、ここは昔、政府によって街の整備・開発が行なわれたのですが、何らかの事情で政府は途中で開発をやめて放棄しました。その村に移り住んできた人たちがこのドキュメンタリーで映し出されています。


『独身男』光棍兒 / Single Man (2010)

監督:郝杰(ハオ・ジエ)
中国北部の辺鄙な農村に暮らす、年老いた独身男たちの物語。若い頃に恋人と結婚できなかった楊は、年老いた今でも村長の妻となったその女性と密かに通じている。村長の妻は村のほかの老人たちとも関係をもち、村のバランスはいびつに保たれていた。だが、楊が若い女を嫁に買ったことから、村のバランスが壊れ始める。
未だ前近代的な中国農村の猥雑な実態を痛快に描いたエンターテインメント。

 

中山: この話は、監督が自分の村で起こったことを題材にしています。出演者も村の人たちだったりします。なので自分で自分を演じている人もいるんです。

 

──映画の紹介では、“村長の妻は村のほかの老人たちとも関係をもち、…”とのことですが、やはりこういった内容だと検閲は通らないですか?

 

中山: 普通は通らないです。検閲では政治的な話題だけでなく、道徳的な点でもチェックされます。例えば泥棒の物語だったとして、その泥棒が最終的に警察に捕まらないといけないんです。捕まらなければ検閲は通りません。あと、単純に「話が暗い」という理由で検閲を通らないなんてこともありますよ。「面白くない」とかも(笑)。

 

──誰の基準なのか(笑)。

 

中山: 検閲官たちは自分たちの主観で判断するので、基準が細かくあるというわけではないんです。これは聞いた話ですが、少年が愛情を持って育てていた鶏が絞められてしまったというストーリーがあったんですが、それは「残酷だ」という理由で通らなかったんです。中国でも鶏は飼って絞めて食べるんですけれどね。検閲を通すのは難しいです。何を撮っていいのか。中国ではまずはあらすじを提出して撮影許可を取ります。映画が出来上がる前からチェックされます。検閲は映画を作る初期段階からあり、厳しいので、みんな「これだったら通るだろう」という無難な映画を撮るようになってしまいます。特に商業映画になると、どうしても映画館で上映して、売上を上げないといけない。なので同じような映画ばかりになってしまいます。個性的な映画は生まれにくいです。一方で、中国では映画産業は売上が伸びてきたと言われていますが、大ヒットしたごく少数の映画に集中していて、裾野が広いということではありません。映画の多様性はどんどんなくなってきていますし、ヒットしている映画はアクションものや、有名監督・俳優による作品です。そういった作品にだけお客さんが入っているという状態です。「そういうものは撮りたくないんだ、検閲なんて通らなくていいんだ」という監督たちが作ったのが中国のインディペンデント映画ですね。


『ピアシングⅠ』 刺痛我 / PiercingⅠ (2009)

監督:劉健(リュウ・ジェン)
スーパーでは万引き犯あつかいされて暴行を受け、勤めていた工場は倒産し、失意のうちに田舎に帰ることにしたチャン。駅へと向かう途中、交通事故で意識不明になった老婆を助け、病院へ連れて行く。しかし、あろうことか彼自身が事故を起こした犯人に疑われ、警察署へ連行されてしまう。

 

──これは私が香港の映像フェスティバル「ifva」で見て衝撃を受けた作品です。これを見た後に中国大陸へ行くと、あの色彩、映像と同じ世界がそのまま現実になったようで興奮しました。

 

中山: 中国では短編アニメは今たくさん作られています。長編はなかなかないですが、この監督は3年間かけてこの作品を作りました。今、3部作のうちの2作目はチームで製作中です。海外では多数の映画祭で上映されています。この監督にとって長編アニメは初めてで、今までテレビアニメや他の映画のアニメーションのパートを仕事として作っています。


『天から落ちてきた!』 天降 / Falling from the Sky (2009)

監督:張賛波(チャン・ザンボー)
人工衛星の打ち上げが盛んな中国。西昌衛星発射センターから上がるロケットは毎回残骸を地上に落とす必要があり、その落下地点に湖南省綏寧県を選んでいる。そのため、綏寧県の人々は打ち上げのたびに落下物の恐怖に晒されており、過去には犠牲者をだしたことも。発展のために犠牲はやむを得ないという役人、打ち上げのたびに避難する農民、そんな村人たちの様子をカメラは丁寧に写し撮る。

 

中山: これは個人的に気に入ってるドキュメンタリーです。

 

──これはひどい話ですよね。日本に住んでいればまったく耳に入ってこない話で。

 

中山: 中国の人もみんなこの話を知りませんよ。毎回打ち上げの度に必ずロケットの燃料タンクなどを落とさないと行けないんです。どこに落とすのにも人は住んでいるので、では落とす場所を指定してしまおうと。この村は指定されてしまったばっかりに、毎回必ず落ちてくるんです。

 

──それに対しての補償などはないんですか?

 

中山: それがないんです。本来あるべきで、村人は「安全なシェルターを作ってくれ」と言います。でもそういったものは用意されません。落ちてくる日には「今日は衛星の打ち上げがあるので避難して下さい」と放送があります。ですが、みんなどこに避難していいのかわからないので、各々が思う安全な場所へ行くんです。衛星が通過した後に家に戻ると、屋根が壊れていたり、畑に大きな穴が開いていたり。打ち上げは軍が行ない、機密を守るため軍が残骸を回収しに来ます。回収しに来た軍人に、村人は「うちの畑をどうしてくれるんだ!」と言います。すると、軍人は「何言ってるんだ。中国では土地は全部共産党のものだぞ。」と言い返すわけです。役人と村人との補償をめぐる会議の場も撮影していますので、なかなか見ることのできない映像が見られるドキュメンタリーです。
監督は、『恋曲(こいうた)』の監督でもあります。彼が撮る映画は、撮影対象との距離が近いのが特徴です。『恋曲(こいうた)』では友人という立場から撮影しています。『天から落ちてきた!』では、村人の農作業風景、家族の会話、学校での授業の様子など、村の日常風景も撮影しています。ニュース映像や告発映像のようなものではなく、現地の農家の人たちが普段どういった生活をしてどういったことを考えているか、そういったところをきちんと押さえている。私はこのような彼の表現が好きですね。撮影時期が北京オリンピックとちょうど重なっていて、オリンピックに対しての村人の様々な考え方も捉えています。中国のなかにもいろんな考え方がある、多様で複雑なんだということを、このひとつの村を通して理解できると思います。どの意見にも偏らない撮影方法ですね。


さらに、今回の映画祭にはそれぞれの作品のほとんどの監督が来日する。イベント・ゲストスケジュールもぜひチェックして、ぜひ足を運んでほしい。今の中国を知るための映画祭。中国の監督たちによって撮られた強く美しい映像に驚かされることだろう。