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アムステルダムから香港に移住した音楽家dj sniffと中華を食べながら。海外の実験音楽、文化、暮らしの話

現地のことは現地人に聞くのが一番だが、同じ国で育った日本人の解釈は、現地の文化やシーンを客観的に教えてくれる。今回は、現在香港在住でその前はアムステルダムに長年住んでいたdj sniffに話を聞きに行った。
ターンテーブル奏者として音楽をつくる側のアーティストでありながら、アムステルダムのSTEIMに7年間在籍。企画者やキュレーターとしての側面も持つ、dj sniffこと水田拓郎氏。香港に移住して約1年半。香港の芸術系大学にて客員助教授を務め、アートや前衛音楽を勉強する学生たちに講義を行なう。
twitterでアポを取りつけて、まずはdj sniff先生の授業を見学。(しかし30分遅刻しました。dj sniff先生、すみませんでした。)
授業見学ののち、dj sniffの活動経歴や考え、世界の実験音楽シーンについて聞いてみた。世界を渡り歩いてきたdj sniffは、香港の実験音楽シーンをどう見ているのか。中華料理レストランで少し遅い昼食を取りながら、そして、海外移住をぼんやりと目論んでいる私の人生相談も含みながらの、対談形式インタビュー。ぜひ、dj sniffの音源作品をBGMに読んでみて欲しい。しかし、細やかな展開が気になって音に集中してしまうことは必至だが。

dj sniff http://djsniff.com/

 

 


(dj sniffと中華を食べた日:2014年2月20日)

 

Offshore山本(以下、山本):日本にはいつぐらいまで住んでいたんですか?

 

dj sniff:もう11年住んでないですね。2002年の夏に離れて、最初NYに行って勉強して。NYに3年住んでからオランダに行きました。

 

山本:NYには音楽の勉強しに行ったんですか?

 

dj sniff:音楽と言うより、ニューメディア系の学校でした。日本で大学を出てからフリーターしてて、大学在学中はDJやったり企画をずっとしてたんですけど、2001年にドイツからDJと音楽家を呼んでYELLOWでイベントやって。その時に赤字になっちゃって、自腹7、8万円ぐらい出して。それが壁だったんです。元々は自分がDJする場をつくるためにオーガナイズもやってたのが、ある一定以上の大きさのものを企画しようとすると、自分を押しやって企画者としてやっていくしかないし、やりたくない付き合いもしないといけないし、その上で赤字も背負ったりして。そのときに、「やっぱりものをつくりたいな」と思ったんです。でもそれまでDJ以外のものづくりってしたことなかったから。それで調べてたら、当時ニューメディア系の学校はポートフォリオとか成績もあまり関係なくて。

 

山本:え、そうなんですか(笑)。

 

dj sniff:日本ではその頃、IAMASができたぐらいのときで、あんまりニューメディアの学校がなかったんです。それと、海外にも出たかったので、アメリカの学校調べて、NYの学校に入って。そこから、自分で音楽も作る。DJだけじゃなくて、ライブみたいなことをしてみようと思って。それからは、作家としてしばらくやっていこう、と思っていました。でもオランダ行ってからの仕事が「企画と運営」だったんですね。それで、また企画もやっていった、という。自分にとっては、オーガナイズやキュレーションも、音楽を作る活動と一緒ですね。結局、企画することをやらなくなったら、どうしても企画をやりたくなって。

 

4月末にdj sniffが大友良英氏を香港に招聘。

何本か行なわれたうちのパフォーマンスのうちのひとつ。

dj sniffと大友良英氏によるインプロヴィゼーションパフォーマンス。

 

 

オランダ在住時代の話「日本と真逆。」

 

山本:(出てきた料理を見て)あ、これ美味しそうですね。

 

dj sniff:実は、オランダ離れたのも、最終的には飯がマズいことが原因で出た気がしますね。飯がマズいっていうか、飯食うことに興味がない国の人たちとは気が合わない(笑)。

 

山本:それ!重要なポイントですよね。私は食事って一番大事だと思ってて。でもオランダって、お菓子は美味しそうなイメージがありますが。

 

dj sniff:パンとかチーズ、乳製品は美味しいですよ。でもそれ以外が……。まず、食に対する興味がない。これ、言い出すとオランダの悪口が止まらないんですけど。うっぷんがたまってて(笑)。

 

山本:(笑)。でも、オランダで7年暮らしてた、って、めちゃくちゃ長いですからね。

 

dj sniff:オランダは文化的に、こう、デカダンなものとかないし、合理的な人たちだから、無駄を省くんですよね。だから、ごはんはいつもシンプル。あんまりハメ外さないし、奇抜なことも好きじゃない。麻薬とか売春とかが合法だけど、あれもビジネスでやってて、割り切ってて。オランダの人たちは「僕らはそんなことはやらないよ」って冷めた目で見る感じが普通で。

 

山本:私が海外移住したいと言いつつ、なんだかんだ日本を離れないのは、日本の美味しい料理のせいかもしれないです。

 

dj sniff:日本に帰ると、基本レベルの飯の美味さがぜんぜん違う。どこで食べても、何食べても美味しいし。香港は、味の素の量が多かったりとか、肉がちょっと臭かったりとかしますよね。基本的に安いものを材料に使う、っていうのが根底にあるから、香港はどこに入っても美味しい訳ではなくて。あー、しまった。壊しちゃった。(小籠包を箸で挟みながら)

 

山本:私も今飲食でバイトしてるんですけどね。

 

dj sniff:何日ぐらい働いてるんですか?

 

山本:だいたい週4ですね。飲食で働いてた毎日で、こうやっていきなり香港に来ると、「うわ、くだらないことをいつも考えてたな」と思って。なんか食の話ばっかりしてますけど(笑)。美味しいごはんを提供する、っていう飲食店のメインの目的に、日本はいろんなサービスとかがくっついてきて複雑になるじゃないですか。どんな飲食店でもスタッフの愛想とかも評価に加わってきて。それが、香港ってもう、どこの食堂でも、怒ってるのか怒ってないのかわからないけど、とりあえずみんなまくしたててガーってしゃべってて。

 

dj sniff:香港の人は基本的に怒ってる感じに見えますよね。

 

山本:でも実は、「これが食べたい」っていう自分の要求を人に伝える、で、それを作って出す、って言うシンプルなことを香港の人は単純にやってるだけで。日本はそうじゃなくてすごく複雑だから。なんか、いろいろ考えましたね、今回。

 

dj sniff:オランダも、日本の真逆で、ニュアンスがまったくない国なんですよ。正直であることがもっとも高い美徳で。曖昧にしていることは失礼。それが最初オランダで仕事始めたときにはつらくて。日本だったらはっきり言うことが失礼で、意味をもたせることでお互いの暗黙の了解を…、あ。

 

山本:私も壊しましたね。(小籠包)

 

dj sniff:日本は仕草とかあるじゃないですか。そういうのがオランダはまったく通じなくて。オランダにいた時の同僚で、月曜の朝の3時間ぐらいは自分の週末の話をずーっとしてくる奴がいて(笑)。最初は聞いてたんですよ。「あーそう、そうなんだ」って。でも、いろいろヒントを出していったんですよ。背を向けてメールを書き始めたりとか、「あー、仕事がー。」とか言って。でも、全然読み取ってくれなくて。で、途中で他のスタッフが「まだコイツの話聞いてんの?」って。「仕事するなら、『仕事するから話やめてくれ』って言えよ。」って言われて。確かに、そこでその同僚に「ちょっと今話す時間ないんだよ」って言うと、「あ、そう。」って言ってあっさり向こう行くんですよ。本当に日本と真逆。だからこそ仕事しやすいことはいっぱいあったんですけど、日本の“ニュアンスの文化”で育ってると、なんだろう……、ちょっと野蛮な感じはして。

 

山本:日本って、伝わらないぐらいの感じでニュアンスを醸し出して、最終、言葉で言わなくても伝わる、っていうことをみんなが望んでるじゃないですか。

 

dj sniff:そうそう。

 

山本:それが私は苦痛に感じる時もあって。私は人の考えてること結構わかっちゃうんですよね。他の人はわからないぐらいの動作とか仕草でも、私にはわかってしまうときがあって。だから、飲食店で働いてる時もすぐわかるんですよ。このお客さん、クレーマーになりそう、とか思った瞬間にコロッと自分の態度変えるんですよ。お客さんの様子を早く読み取って、そこからすごい良い接客をすると、絶対最終的にはそのお客さん喜んで帰るから。

 

dj sniff:(笑)。

 

山本:その自分の能力みたいなものを最近は逆手に取れるようになったんですけどね。

 

dj sniff:それはスキルですね。

 

山本:いやー、でも、かと言って飲食続けるつもりもないので微妙なんですけど。

 

一部のわかってる人たちに向けてやっても、広がりがない

 

dj sniff:でも、仕事、デイジョブがあって、それがあまりにも肉体的につらいと、クリエイティブなこととか、やりたいことをやる時間ってどんどん取られていっちゃいますからね。僕は大学出たときに、派遣で土方をしばらくやってて。半年ぐらいやってたんですけど、結構楽しかったんですよね。

 

山本:え、楽しかったんですか?

 

dj sniff:そう。単純で、すごいクリアだから。現場行って、仕事を指示されてやって。同じ現場に通っていくと、どんどん認められていって。責任もちょっとずつ与えてくれたりとか、派遣を通さないで仕事もくれたりして。朝9時とか8時に集合で、5時とかに帰って。それで飯食ったらもうへとへとで、風呂入って寝るだけ。そういう生活をやると、リズムが出来ていって。

 

山本:あー、わかります!

 

dj sniff:体もだんだんムキムキになっていくし(笑)。もう平日のイベントとかは行けないし、帰りに渋谷寄ってレコード買いに行く、っていうこともなくなって。そういうことをだんだん忘れていきますよね。なんか、「このまま俺は土方を目指す!」みたいな気持ちになっていくのは、ちょっと……、怖くはないんだけど、ちょっと、揺らいだかな。

 

山本:わかります。私はちょうど1週間前ぐらいそれでした。でも、やばい!って思って。やばい!って思った瞬間に舵取り直して。ちょうど今回香港とタイに行く、っていうのもあったから、まずはfacebookなり何なり情報をチェックする、あとsoundcloudを覗いたり、音楽を聴く、っていうルーチンワークを取り戻していって。

 

dj sniff:偉い(笑)。

 

山本:まあクリエイティブなことを忘れたら忘れたで、別にいいと思うんですけどね。

 

dj sniff:むしろ、仕事だけをやってる人たちが大多数な訳じゃないですか。

 

山本:そう、そうなんですよ。

 

dj sniff:そういう人たちが、僕らがやってるようなことに興味を持ってくれないと、文化の土壌って出来なくて。

 

山本:本当にそう。

 

dj sniff:基本的に僕がパフォーマンスやるところって平均したら25人ぐらいのお客さん。でも、大きな所でやることもあるし、それを目指してるけど、25人とか50人とかの会場のところでずっとやってても、やっぱりダメだな、ってよく思うんです。実験音楽とかインプロの世界って、そういう小規模のイベントでツアーを回して、それでキャリアを積んできた人たちもいるけど。今の感じだと、一部のファン、一部のわかってる人たちに向けてやってる。それだと広がりがなくて。どっかで自分の活動を広げることも取り入れていかないと、やってても意味ないかな、とは思ってます。

 

dj sniff Transonic 2012 Full performance from dj sniff on Vimeo.
Offshoreでも何度も紹介してきた台湾台北、失聲祭(Lacking Sound Festival)のプロデューサーYAO, Chung-Hanなども参加した、台北『Transonic』でのdj sniffソロパフォーマンス。

 

 

音楽には「楽しい」とか「面白い」と思う瞬間がないと嫌だな、と思って

 

dj sniff:日本、あとヨーロッパもそうなんですけど、アート音楽とか、芸術的な音楽、実験音楽って、ピュアなものを求めて、芯となる音楽を貫いて、それが受け入れられても受け入れられなくても続ける、っていう感じが多い。僕としては、一人でも多くの人を振り向かせられるなら、そこで融通きかせても良くて。あと、インプロって、シーンは昔はちゃんとあったんですよね。僕はヨーロッパ廻るとインプロのシーンを廻るんですよ。お客さんの平均年齢が65歳以上ぐらいで。

 

山本:平均で65歳以上なんですか?!

 

dj sniff:間違いなく僕が一番若い(笑)。だいたいお客さんはおじさん。彼らはすごく優しくしてくれて、僕は息子ぐらいの歳で。たぶん、インプロとかの話のできない彼らの息子の代わりに、僕が相手して(笑)。で、やっぱりお客さんも少ないし、「今の若い子はついてこないんだよね」みたいな話を聞いてると、違うなー、と思って。それで、その土地でオーガナイズとかしてる若い子に聞くと、「アイツらが全部助成金持っていって、コンサート行くとギターをカサカサ、カサカサ、って爪で引っ掻いてるような演奏しかやらない」とか言ってて(笑)。

 

山本:(笑)

 

dj sniff:そんな話を聞くと、それは確かにそうだな、と思いますしね。

 

山本:この前、Twitterで「あくまでも芸術ではなくて音楽のカテゴリーでやりたい」みたいなことをおっしゃってたじゃないですか。あれってどういうことなんですか?

 

dj sniff:あのときtwitterで書いたことと同じなんですけど、僕がDJから今の方向に変換する時期に、東京ではHEADZ系のイベントとか音響系がすごい流行ってて。ちょっと普通の音楽とは違うもの聴きたいってなると、そのあたりのイベントを見に行く感じだったんですね。でも、僕は行っても楽しくなかったんです。みんな我慢してる感じがして。「興味深い」という意味の面白い、Interestingである、っていうことは間違いないんですけど。楽しいか?って言うと、楽しくなくて。どっかで「理解しないといけない」。理解を強要されるような感じがあって。コンテクストを理解する、とか、アーティストがどういう意図でやってるのかを理解しないと面白さがわからない、っていう感覚があったんです。僕は大学では美術史と美学を勉強してたんですけど、アートとか現代アートって、解釈の方法と、知識量によって、どんどん受容の仕方が変わっていくんですよね。僕はその“揺らぎ”みたいなものがなんなのか、っていうのがずっと気になってて。例えば、作品を見て最初は「面白くない」と思ったものが、キャプションを読んで「面白い」に変わったり。メディアでの紹介を読んで「面白いもの」として美術館に行く自分がいたりして。でも、それが揺らいだりすることもある。それを考えたときに、音楽ってその“揺らぎ”が少ないような気がしたんですよね。音楽は直感的だし、面白いものは面白く持続するし、なんだろう、やっぱりこう、直感的に。良いものがすぐわかる。それが理解できなくても。なんとなくあんまり気に食わないなあと思ったものは、どんなにキャプション読んでも最終的にはあまり揺らがない。

 

山本:なるほど。確かに音楽は直感で受け入れるか受け入れないか判断しますね。

 

dj sniff:それが僕にはやりやすかったんですよね。あまり考えなくて済むから。美術作品って、評価しないといけない時、いろんなことを考慮しないといけない。歴史的なものもあるし、アート界の経済的なこともあるし、アーティストのバックグラウンドもあるし。そういうのを、どんどんどんどん受容して、そのうえで作品を受け入れなきゃいけない、っていうのも面倒くさくて。それが音楽にまで強要されるとちょっと嫌だなあ、と。別に、ポップだったり踊れる音楽じゃなくてもいいけど、音楽には「楽しい」とか「面白い」と思う瞬間がないと嫌だな、と思って。物書きとして批評するなら説明しなくちゃいけないかもしれないけど、その部分って別に説明しなくても良いわけじゃないですか。あやふやなままでもよくて。それが僕は好きで。

 

山本:そう言われると、あらためて音楽っておもしろくなりますよね。ところで、最近日本には帰りました?

 

dj sniff:正月に帰りました。

 

山本:どうでした?

 

dj sniff:すごい楽しかったですよ。今回は、新しく会う人たちと演奏する、っていうことを目標にして。普段はソロをよくやるんですけど、ソロをほとんど入れませんでした。だいたい帰国すると山本達久さんと何か一緒にやってます。彼と、坂口光央さんと一緒に。あと今回は、七尾旅人さんとも一緒に演奏して、すごく楽しかったです。あと、一楽儀光さんと福島まわったりとか。一楽さんとはよく会話してるんですけど、すごく話の合う人で。一楽さんも「広がらない音楽をやってても仕方ない」って言ってるし、「つまらないオッサンになったら終わりだ」みたいなこと言ってて。常に新しいことやろうとしてる。あとあの人はすごい戦略的だから、それが凄い好きで。面白いことをやって目立つ、っていうか、ミュージシャンってそういうのがないと、お客さんも見てて楽しくないだろうな、と思いますしね。

 

山本:私が日本から見てると、dj sniffって、すごく謎の、謎過ぎて気になる感じなんです。

 

dj sniff:そう言ってくれるの、たぶん1人か2人ですよ(笑)。

 

山本:(笑)。どこかから、dj sniffは香港で先生してる、っていう情報がまわってきて。アーティストのTaishi Kamiyaさんかな?ちらっと聞いて。それで、香港のレーベルRe-RecordsからCD出た、って情報見たときにチェックしたりとか。で、soundcloudでアップされた音源『Europa』聴いたらすごく面白くて。

 

dj sniff:そういうのはすごく嬉しいですし、昔からDJやってるときも、凄くこだわり持って、1年とか長期間かけてミックステープ作って、そうすると強く反応してくれる人がチラホラといてくれて。そういうのがあるからやっていけるんですけどね。まあ、でも、それだけだとダメだな、とも思ってて。音楽家としてだけやるのは無理。そんなことを特に思ったのは、七尾旅人さんを見たとき。彼の求心力っていうのはものすごくて。彼が企画したインプロの、しかもインプロっていうかセッションみたいなライブに200人とか前売チケット買って集まって、オーディエンスがみんな温かい目で見守ってて。音楽もそうだけど、「七尾旅人」っていう……、

 

山本:「人間」ですよね。

 

dj sniff:そうそう。彼も、デビューしてから若い頃に苦労してた、って雑誌とか読むと書いてあって。地道にやってきて今のポジションがあるんだろうけど、やっぱり発信する力とか、あれだけ多くの人とコミュニケーションをとる力が、全然違うな、と。僕はそこにあまり費やしたくないけど、僕のtwitterでの何百人、っていうフォロワーと、彼の6万人?とかいうフォロワー数を考えると、もう全然影響力違うし、やることも変わってくるから。やっぱり音楽でやっていくには、そういう力、なんて言うんだろう、能力がないと、ダメだと思うんですよね。だから僕は、もう自分がそういう能力がないのはわかってるから、とにかく持続していって。「謎の」でも、なんというか……。海外に出てから、もう僕がどこの人なんだか、みんなわかってないみたいで、オランダに住んでた時代は「オランダから来る」っていうのでオランダ人と思われてたこともあったし、こないだも七尾くんに呼んでもらったときは「香港から」っていうことでみんな僕のこと中国人だと思ってたし、だから、まあ、それでいいかな?って。(笑)

 

山本:でも、dj sniffって、実験系の中ではポップなほうですよね。

 

dj sniff:それはそう思います。でも…、実験の中でポップ、って言っても……、狭い……(笑)。

 

dj sniff performance reel 2011 from dj sniff on Vimeo.

 

 

香港の実験音楽シーン「シーンっていうのが幻想」

 

山本:香港はどうですか?香港で活動していて、やりやすいですか?

 

dj sniff:香港がやりやすいのは、給料の出る仕事があるからやりやすい、っていうのがあって。それがなかったら、例えばバイトだったり、アーティストだけでやってるとしたら、すごく厳しいですよね。それだったらベルリンとか、ブリュッセル、アメリカ西海岸の方がいいかも。香港って普段の生活のお金がすごくかかるんで。家賃も高いし。そういう意味では、文化の土壌としてはあまり良くないんですけど、バブルなんで。僕みたいな、普通だったらあまり大学では雇ってくれないけど特殊な分野で経験のある人とか、あとはちょっとシステムから外れてる人たちに対する可能性みたいなものはあって。アート系、音楽系で香港に引っ越してきた人で、キュレーターだったり先生だったり、アーティストとかでも、メインストリームじゃないけどそれなりに経験ある人たちがどんどん来てるんで。仕事があるという意味ではやりやすいです。ただ実験音楽とかだと、台湾、北京のほうが需要あります。香港の実験音楽周辺のオーディエンスはすごく狭いですし、そういう音楽をつくる音楽家もDennis(※香港の実験音楽レーベルRe-Records主宰でノイズ音楽家)の周りの2、3人で。こないだ、マカオと香港の24時間合同フェスで『KILL THE SILENCE』っていうのがあったんですけど。あれも音楽家の相対数が少ないから、24時間やろうとするとジャンルがめちゃくちゃで。もう、実験音楽だけじゃなくてインディー、全ジャンル。そういう状況なので、シーンができるとか、そういう希望はほとんどないですよね。結局は個人。それぞれが、それぞれでやってて。

 


dj sniffのデイジョブ、School of Creative Media City University of Hong Kongでの授業の様子。

マルチメディアホールを使って行なわれた実習では、Pendulum Music(Steve Reich, 1968)を再演。

現代音楽からエレクトロ、テクノまで、あらゆる音楽に用いられる“Phase”をこの実習により体験させる。

(天井から吊るされた照明バトンにマイクの付いたケーブルを4本垂らし、それぞれのマイクの下にスピーカーを上向きに置き、マイクを振り子として扱いハウリングの音を鳴らさせる。)

その後の講義では、音楽記録メディアの変遷を、様々なミュージシャンの動画、フィルムなどを引用して学生たちに伝えていた。

 

山本:よく香港の人から、香港のシーンに対する愚痴をよく聞いてるんですけど、「日本はまだ状況が良いだろ?」とか、ひがみっぽく言われます。昨日、Dennisと話した時も思ったんです。「そんなに香港の状況ひどい、って愚痴るけど、もうちょっと頑張ったら、香港でもシーンって産まれるんじゃないの?」って。でも、そう簡単な話じゃないみたいですね。

 

dj sniff:たぶん、「シーン」っていうのが幻想だと思いますよ。一時期のNYとかブリストルとかデトロイトみたいな感じって、やっぱり僕らが妄想を抱いてて。ベルリンが唯一、シーンって呼べるものがありそうだけど、実際行ってみると物事も人も多すぎだし、本当に面白いことやってる人の数はやっぱり少ない。ただパーティーが多いだけ。そうすると、結局どこに住んでてもあまり変わらない。お客さんの数とか、やらせてくれるベニューの数は都市によって変わってくるけど、それを考えるとアジアでは日本が一番、次は台湾、あとは北京ですかね。ソウルはあんまりないし、東南アジアもあんまりないし。そういうの考えると、どこに住んでも一緒、ってことなんで、だったら仕事のあるところに住もう、っていうのが僕の考えですね。あと、住んでてつらくないところ。

 

山本:ごはんが美味しいところ(笑)。

 

dj sniff:そう。

 

山本:でもね、香港久々に来たらパンがおいしくなった気がします。あとコーヒーも。

 

dj sniff:コーヒー、ここ一年ぐらい流行ってるんですよね。いろんな美味しいコーヒー屋さんが新しくできてて。金になるものには香港の人たちは敏感ですよね。

 

山本:香港の人たちのそういうところ、愛らしいな、と思いますね。わかりやすい。

 

dj sniff:悪い意味じゃないけど、初めて会う人とかには、スカウターで値段を鑑定されてる感じがすることがありますね。「ああ、君は大学の先生なの?」「日本人なの?」とか。こっちの人はみんな商売人だから。少しでも利益を求めて、少しでも努力する、っていう感じがあります。そういう意味でも、音楽の土壌にはあまり適してないですよね。クラブとかはあるし、アメリカのポップスターとかも来て楽しいパーティーもあるけど、そういうのも流行りで。アンダーグラウンドのものとか、流行らないものをやる場所はほとんどないです。

 

山本:でも、違う角度から観ると、いたって普通のことですよね。日本も何かとアンダーグラウンドカルチャーが凄いって周りの国からは言われるし思われてるけど、結局そんなにお客さんが来てる訳じゃないし、そりゃ灰野敬二さんとかビッグネームは客が入るけど、その下に誰が続いてるんだ、って感じですよね。

 

dj sniff:日本の悪いところは、スターが出ちゃうと、みんなそのスター以外に興味なくなっちゃうから。灰野さんがいて大友良英さんがいて、じゃあ、他はもういい、ってなっちゃうし。要はそこを目指すのが成功の秘訣かもしれないですよね。

 

山本:じゃあ、もう一生日本には帰ってこないんですか?

 

dj sniff:いや、めちゃくちゃ帰りたいですよ(笑)。

 

山本:え?日本に仕事があれば日本に住みたいですか?

 

dj sniff:日本に住みたいですね。でも十数年も日本に住んでないので、基本的なマナーとかが心配。敬語のメールとか全然書けないです。日本社会に適応できるかできないか、っていう怖さみたいなのがあって。帰るとしたら、ある程度安心できる状況がないと帰れないかな。うちの母親が結構年取ってるっていうのもあって、5年、うーん、あと10年以内にはたぶん戻りますよ。

 

山本:そうなんですね。

 

dj sniff:なのでそれまでに頑張って。外タレとして(笑)。

 

山本:外タレ!逆輸入(笑)。

 

dj sniff:逆輸入狙ってね(笑)、帰れないかなーって思ってるんですけどね。

 


 

 

そんな、外タレとしての日本での活動も目論むdj sniffの新作が、来月日本のレーベル、ダウトミュージックからリリースされる。その名も『dj sniff、ダウトミュージックを斬る。』。過去にリリースされたダウトミュージックの音源を元にしてdj sniffが再構築した音源だそうで、非常に興味深い。リリース日が待ちきれない音源は久々である。6月29日には東京スーパーデラックスにてリリース記念ライブも。蒼々たる共演アーティストにも注目。

 


『dj sniff、ダウトミュージックを斬る。』
CD:dms-152 定価 ¥2,160(込)
LP:dmv-301 定価 ¥2,700(込)
2014年6月15日発売
http://www.doubtmusic.com