dj sniffへのインタビュー記事を掲載してから、丸2年が経った。dj sniffがアムステルダムから香港に居を移して2年経った頃に取ったインタビューであり、日本と香港とヨーロッパでの実験音楽や即興音楽における共通点や違いを聞いた。
アムステルダムから香港に移住した音楽家dj sniffと中華を食べながら。海外の実験音楽、文化、暮らしの話
その後すぐ、dj sniffは大友良英氏がアーティスティックディレクターを務めるEnsembles Asia / Asian Music Networkのプロジェクト・ディレクターとしての活動も始め、東南アジアを中心に、各地をリサーチしている。あのインタビューから2年を経た今、ここでもう一度、dj sniffの今の考えや活動について聞いてみることにした。私自身は当時大阪在住だったけれど、今は沖縄に居を移したという変化があった。また、dj sniffにとっても、2年前と比べるとアジアと日本で活動を大きく広げてきた変化があった。ちなみに今回は、dj sniffと香港のギャラリーThe Empty Galleryに行く途中・行った後のバス車内で主にインタビューを行なった。
Offshore 山本(以下、山本):香港、5年ぐらい前に比べるとちょっと変わりましたね。昔はDennis Wong(*1)も定期的にイベントをやっていたわけじゃなかったし、あと今日行ったThe Empty Gallery(*2)に対して香港の人たちが賛否両論であることとか。昔は、こういう実験的な音楽について情報を聞くことがほとんどなかった。
*1) Dennis Wong・・・Sin:Ned名義で活動する、香港在住のノイズミュージシャン。
参考記事:香港に暮らすノイズ実験音楽家の苦悩と努力- Re-Records代表 Sin:NedことDennis Wongインタビュー
*2) The Empty Gallery・・・香港島南部の工業街にあるギャラリー。実験音楽や即興音楽などの一流アーティストを毎回海外から自費で招聘し、コンサートを月1回程度行なっている。
http://www.theemptygallery.com
dj sniff:確かに。今アンサンブルみたいなものをやろうとしてる人が2組いて。1人はSteve HUI、Nerveって名義でやっているアーティスト。彼は古い記録映像と一緒に演奏するDECADE Ensembleっていうプロジェクトをつくって、10人ぐらいでインプロで演奏することを始めてて。あと、Kung Chi Shingも、地元の若い実験音楽家、あといろんなジャンルの音楽家を集めて定期のプロジェクトを始めてる。3、4年前と比べるとちょっと増えた感じはする。
山本:イベントごとは増えてきたけど、お客さんが増えるわけではないし、どうなんでしょうね。
dj sniff:そういう音楽をやる人数がちょっと増えてきた。それがいいことかな。お客さんの数は厳しいからオーガナイズも厳しいけど。でも若い人達でそういう音楽をやる人が増えてきたのはいいことだね。今沖縄で、実験音楽とか即興演奏のミュージシャンが外から来るときに、出てもらえるミュージシャンって何人ぐらいいる?
山本:うーん、10人ぐらいですかね。私から自信持って出て欲しいとオファーできるのは10人ぐらい。
dj sniff:いいね。香港より多いよ、たぶん。
山本:ほんとですか?うーん、いや、10人いけるかな?8人、9人ぐらいかも。
dj sniff:俺はShane Aspegrenと会ってなかったら、本当に香港で音楽はやらなくていいと思ってた。Shaneは結構おもしろいバックグラウンドを持ってて。アメリカのインディーバンドでドラムを演奏してたんだけど、パリに引っ越して、パリでもちょっとインディーロックみたいなバンドのドラムやってたらしい。(※Shane AspegrenはアメリカではBright Eyesのメインドラマーとして活動、またフランスではThe Berg Sans Nippleで活動していた。)奥さんの仕事の関係で香港に来たけど、香港に来てからは、ほとんど音楽やってなくて。たまたま香港で一緒に演奏することになった。そうしたら彼はすごい上手くて、彼と一緒に組んでみたいと思って。ところで、沖縄にはしばらく残りそう?
山本:1年目の途中までは「ぜったい帰る!」って思ってたんですけど、今は残りたいですね。やっぱりあそこは外国で面白い。全部カルチャーショックで。ホームシックにもなったし。でも、お酒飲み始めるとね。飲み友達ができ始めると面白くなってくる。
dj sniff:そっか、じゃあ沖縄残ることが今の山本さんのプランなわけね。
山本:そうですね。なんかやっと、こう、わかった気がします。大阪って超都会だったなと思って。どんな音楽でも生で聴けるし。なんでも聴くことができないところで暮らして、自分の聴きたい音楽をやろうって思うことには、ものすごいパワーがいるんだなと気づきました。だから、dj sniffとか、バンコクに住んでる清水さんとか、そういう人たちの気持ちがやっとわかった気がする(笑)。
dj sniff:いろんな事が起きているところには住まないほうがいいのかなって思ったりもする。
山本:まあ確かに、twitterで東京の誰かがやり合ってるのを見ると、「東京って大変そうだなあ」とか思うし。そういうところで活動したくないな、って確かに思う。
dj sniff:住むところと仕事するところを変えるっていうのもひとつ。仕事があれば、住んでるところではガツガツしなくていい。住んでるところではゆっくりできて、それで、海外にツアー行って自分の音楽やるっていうほうが、いいのかも。住んでる場所でガツガツやると、結構大変だと思うんだよね。
山本:そうだ、アムステルダムってそういう感じだったんですよね?
dj sniff:そうそう。
山本:最近になって、ERECT Magazine 004号のアムステルダム特集を読んだんです。当時アムステルダム在住のdj sniffとして書いていたテキストが、まさにそういう内容でしたよね。へー、アムステルダムってそういう場所なんだ、と思ってて。
dj sniff:香港も同じで。もう住み始めて4年目、この前のインタビューは2年目ぐらいだった。あの頃から香港で音楽やることの限界が見えてた。これ以上あんまり演奏する場所もないし、あんまりやる必要もないかなと。そうすると、楽に思えてきて。
山本:私も今のデイジョブでやってるアートマネジメントみたいなことは、沖縄だからやれるけど、大阪ではやりたいと思わないかもしれないですね。もっと感情が出ちゃいそうだし。香港にはまだ住むんですか?
dj sniff:出ようとも思ってたんだけど、あと2年間は居ることになった。たぶんそのあとは日本に帰ると思うけど。
山本:2年後だったら2018年から2019年ぐらい、東京オリンピック直前か。ベストタイミングかもしれないですね。
dj sniff:ちょうど前のインタビューの時って、いろんなことが始まる直前で。あのあとアルバム出して、それから大友さんに誘われてEnsembles Asiaの仕事も始めて。一つの流れができる直前だった。あのときと比べるとだいぶ形になって方向性もついてきて。今は国際交流基金と一緒にいろんなことができるけど、どうやったらそれで意味のあることができるのか、っていうプレッシャーはある。
山本:Ensembles AsiaのなかのAsian Meetingは、どういう捉え方なんですか?
dj sniff:ひとつは、日本のお客さんにアジアのシーンを紹介するっていうことと、それから、アジア内で長期的なネットワークをつくること。一過性にしないっていうのを意識してて。それと、せっかく大きな会場でできるし、多くのお客さんに来てもらえるから、あんまりインプロとか実験音楽界隈にとどまらないようにしてる。できるだけインプロ、実験音楽ど真ん中の人ばかりにはならないように。キュレーションとしては、やってておもしろい。僕とユエン・チーワイ(*3)がAsian Meetingのキュレーションをやると、国内でのしがらみがないのも良いと思う。そういうのを気にせずにできるから。
*3)ユエン・チーワイ(Yuen Chee Wai)・・・シンガポールを拠点とする実験音楽、ノイズ、即興音楽のミュージシャン。バンドThe Observatoryのメンバーでもあり、大友良英氏率いるFar East Networkのメンバーでもある。Ensembles Asia / Asian Music Networkではdj sniffとともにプロジェクト・ディレクターを務める。
山本:昨日、Asian Meetingにも出演した香港のサウンドアーティストFiona Leeと会って、彼女が話していたのは、インドネシアのアーティストと会ってすごく面白かったと。「香港は実験音楽を勉強できる場がたくさんあるけど、インドネシアはDIYで勝手にそれをやっちゃってる。それがすごい面白いと思った」って言ってて。マレーシアのYong Yandsenからも刺激を受けたと。私はAsian Meetingをまだ一回も見ていないから何も評価とかできないんだけど、日本の人がアジアにどれだけ心開くか、とかはわからないけど、まずは、地域のミュージシャン同士が繋がっていって、そこでお互いの住む地域のことを情報交換できてる。それがまずは面白いし、それがきっかけとなって豊かになっていくのかなと思って。
dj sniff:そうだね、そこはすごい意識してる。せっかく公的資金を使うなら、もうツアーで外に出られている人たちはあまり呼びたくなくて。これから出て行くべき人とか、Asian Meetingに出ることでちゃんとネットワークを継続していける人たちを繋げていこうっていうのを意識して、ミュージシャンを選んでる。2年やって、すでに発展もある。Asian Meeting終わった後にミュージシャン同士がお互いを呼んでツアーを企画したりとか。そういうことが起こっているから、やりがいある。
山本:そこをもっとアピールしたほうがいいんじゃないですか。日本での見え方って、「大友さんがまたアジアのことやってるんでしょ」っていうイメージになっちゃってる気がする。自分が実際まだAsian Meetingを見に行っていないから、勝手な思い込みかもしれないけど。現場に行けずにメディアからの情報だけを見ているとそういう雰囲気がある。
dj sniff:うん、徐々にやってる。そう。磯部涼さんとトークで話した時にも、磯部さんが「ミュージシャン同士の輪ができるっていうのも特徴のひとつですよね」って言ってくれてて。それってあまりアピールポイントにならないんじゃないかなと思ってたんだけど、割とみんなそれをピックアップしてくれる。必然的に起こることかなと思ってたんだけど、やっぱり、それもプロジェクトのひとつのアジェンダとして打ち出すのはいいかなと思って。
山本:たぶんそれぞれの地域で環境も違う。マレーシアのミュージシャン達は、助成金とかうまく活用して海外のミュージシャンを呼べたり、シンガポールの場合はユエン・チーワイとかがうまくアーツカウンシルと仕事してる。じゃあ香港のFiona Leeの場合は、自分でオーガナイズをしていないから、今後繋いでいく立場を担うのは厳しいかもしれない。でもそれぞれの地域のアーツカウンシルなりファウンデーションが、そういうことが今現在起こっている、って、ちゃんと気づいてくれると、よりミュージシャンやりやすくなると思う。これは私の今のデイジョブでの目線だけど。
dj sniff:僕もチーワイもそうだけど、なんでミュージシャンなのに企画とかまでやるかっていうと、オーガナイザーとかキュレーターが嫌いなんだよね。ミュージシャンであってキュレーターやオーガナイザーを兼任する人が一番信用できる。ミュージシャンじゃない人が助成金取ってきてコーディネイトや企画すると、なかなかミュージシャンのことを理解してくれないことが多いから。そうじゃない人もいるけど。
山本:そうか、助成金取った時点で、もうしがらみはできているかもしれない。
dj sniff:そうそう。だからやっぱり、アジア各地でアーティストやミュージシャンでオーガナイザーでもある人たちを探してきて、彼らを繋げるっていうのも今のプロジェクトの目標みたいなところ。あと、今年はできるだけ、日本以外のアジアでAsian Meetingをやろうとしてる。日本ってアジアアジアって言いながら、日本の中でしかアジアのことを話してないなって。アジアの中に入っていって、アジアのことを話そうとしない、っていう意見が結構あった。ほんとそれはそうだなと思って。日本にみんなを呼んできてアジアの話ばっかりしてる。現地に入り込んで、そういう会話をつくらないと意味がないなと思ってて。
山本:そう、日本の外でアジアの話をしないと結局公平じゃない。日本人でタイは親日、台湾は親日、って思ってる人は多い。でも、実は台湾にも日本が好きじゃない人はいるわけで、そういう人に出会ったことがなくて日本のメディアの情報でそう思い込んでるだけで。タイ人だって日本にまったく興味のない人もいるし。
dj sniff:日本の変なおごりっていうか。テレビでもよくやってるじゃん。「日本のここがすごい!」みたいな。
山本:うん、最近そういう番組すごく多いらしいですね。
dj sniff:自信のないのを補う、みたいな。僕ら界隈でもあると思う。ライブに出て、日本だからってだけでみんな「すげー」って言われて。
山本:インディーロックバンド系の界隈では、だいぶ日本の人もアジアのバンドを意識してくれるようにはなってる。でも、まだ見方がなんかおかしい。欧米のバンドと同じ扱いにはならない。
dj sniff:やっぱり見下してるんでしょうね。上から、ああがんばってるねえ、みたいな。台湾のskip skip ben benは良く日本に来てるけど、レビューとか読んでると「シューゲイザー、台湾もいいのあるじゃん!」っていう感じで。ちょっと見下してる感じがした。
山本:去年タイのバンドの日本ツアーをやったんだけど、そのバンドのYouTubeでは曲名がタイ語の文字で書かれてて。Twitterでは、おおむねみんな「良い曲」っていう感想をくれるんだけど、いちいち「タイトルが読めないけど」って書く(笑)。あたりまえじゃないですか、と思ってました。タイ人からしたら、日本語わけわかんないですよ、と。あのタイ文字自体をもう見下してる感じがするなあと思ってて。
dj sniff:でも、変わるかなあ。今日本の経済が弱いから。自信喪失というか、そういう劣等感が、過去の世界大戦のきっかけにもなったと思うし。うーん。
山本:結局は変わらないかもしれないですけどね。
dj sniff:せめて自分たち界隈では変えたいけどね。
2016年4月23日、香港にてインタビュー
dj sniff プロフィール
※Ensembles Asiaウェブサイトより引用
香港を拠点に、実験的な電子アートと即興音楽の分野で活動する音楽家、キュレーター、プロデューサー。彼の音楽は、DJ、楽器デザイン、即興演奏を組み合わせた独特の実践のもとに成り立っている。アムステルダムの STEIM (スタイム電子音楽研究所)で7年間アートディレクターを務めたほか、ヨーロッパ、アジア、アメリカ各地の国際フェスティバルやライブ会場での演奏多数。これまでに、4枚のソロアルバムをリリー ス。ニューヨーク・タイムズ、オールアバウト・ジャズ、ザ・ワイヤーの各メディアにレビューが掲載されている。