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アートを通じて人々がコミュニケーションできる場所ーTaipei Contemporary Art Centerの取り組み

今回紹介するのは台湾台北市にあるTaipei Contemporary Art Center。現在はドイツを拠点に世界各地で活躍するオーディオ・ヴィジュアルアーティスト黒川良一さんにTaipei Contemporary Art Center(以下TCAC)の活動が面白いと教えてもらった。TCACスタッフの一人、Meiyaにアポイントを取り、台北に出来て1年になるTCACがどういった施設なのか紹介してもらった。

台北市の地下鉄西門駅、観光客やポップカルチャー好きの台北の若者が歩く原宿のようなエリアとは反対側に降りると、いたって普通の下町が現れる。古いビルが連なり、1階に面したテナントには安い食堂が多い。仕事中らしいサラリーマンや学生風の若者が歩く。

 

麺料理などの食堂が並ぶ。

 

地図で指された場所に着くと、ガラス張りのオフィスが目の前に!驚きだった。Meiyaとはそれ以前に台北松山区に位置するギャラリー「Garelie Grand Siecle」で会ったことがあった。このガラス張りのオフィスの奥に、確かにMeiyaがいる。そのガラスにはどうもドアがなかったので、あたりを見回すと、隣にグレーの大きな鉄製のドアがあった。中に入り、Meiyaを訪ねる。軽い挨拶を交わしてから、さっそくMeiyaにTCACのことをいろいろと紹介してもらう。まずはこのオープンなオフィスについて。オフィスの中から外を見ると、通行人が丸見えで、老若男女、あらゆる人が通っていく。逆に通りからこのオフィスを見ても、もちろんオフィスの中が丸見えなのだ。ちょうどこの時は、前の歩道で原付スクーターにまたがりあくびをして何かを待っている若者がオフィスの中から見えた。

 

アートって高級感があって絶対的に美しいもの、というイメージがあるけど、私たちはそこに疑問をもったの。

 

Meiyaは「アートって高級感があって絶対的に美しいもの、というイメージがあるけど、私たちはそこに疑問をもったの。もっとアートを身近に感じて気軽にディスカッションしてコミュニケーションを取れる場が必要じゃないのかと私たちは考えているのよ。」と言う。「訪れてくれる人も気軽に窓の向こうからコンコンってノックできるでしょ(笑)」と。

 

確かに、アートに関係する仕事をしているオフィスって一体何をやっているのか想像がつかなかったりする。アートという言葉自体が、なんだか一般を遠ざける感じもある。それが、アートに関わる人たちの仕事風景が通行人にさらされていることによって、生活感を感じることができる。生活感は一番の親近感だ。実際に、彼らのオフィスは扱っている内容はアートにまつわることだけれど、一目見た印象では一般の中小企業の会社となんら変わりなかったし、それぞれのデスクの上が資料や文房具、パソコンケーブル類で散らかっていたり、コピー機の横に無造作にコピー用紙が積まれていたり、なんら気取らないオフィスだった。

 

TCACのドアを入ってすぐ、1Fには古本の販売スペース

 

MeiyaにTCACのビル内を案内してもらう。1Fはチラシやフリーペーパーのスペース、古本の販売スペース、そして先ほどの開放的なオフィスがある。2Fにはイベント・ギャラリースペース。不定期で金曜に行なわれるFriday Bar(星期五酒吧)やレクチャー、シンポジウムなどが行なわれている。3Fと4Fがエキシビション用のスペース。窓からうっすらと台北101も見えたのが印象的だった。

 

「普通はこういったアート関係のビルなら、1Fや2F、より地上に近い階にエキシビションスペースを持ってくると思う。エキシビションはアーティストの大事な機会。地上に近い階にエキシビションスペースを設置するほうが訪れる人にわかりやすくて良いから。でも、私たちはあえてそれを上階に持っていって、1・2Fにディスカッションやコミュニケーションできるスペースを持ってきた。私たちは会話や交流をすることがより重要だと感じてるのよ。」

 

3Fのエキシビションスペース。

イベントやエキシビションがないときは基本的に何もない空間。

窓の向こうにうっすらと細長い垂直の影、台北101が見えた。

 

建物自体は40年前に建てられたビル、2Fから上の階では昔は一般の家族が住んでいたらしい。かつて部屋を区切る壁があったが取っ払ってまっさらな広い空間に変えている。窓の向こうには東吳大學も見え、通りには大学生が多い。だが、大学生は意外とこちらには目を向けず、アートと言えばMOCAや台北市立美術館を訪れるのが一般的だとのこと。

 

また、Meiyaは現在のTCACの運営状況も語ってくれた。TCACは忠泰建築文化藝術基金會(JUT Foundation for Arts and Architecture)の繰り広げるUrban Core Art Districtという事業の中のひとつで、2年間の契約で、スペースを無償提供してもらっている状態だ。メイヤも含めてこのTCACのほとんどのスタッフがほぼボランティアでここを運営しているとのこと。2012年3月でその2年間が終了するとのことで、今後はどうなりそう?存続できそう?との質問に、「実際のところまだわからないけれど、存続するためにみんなで努力しているわ。」とのこと。

忠泰建築文化藝術基金會(JUT Foundation for Arts and Architecture)

http://www.jut-arts.org.tw/

 

TCACのあるブロックにはアートスポットが集まっている。

Urban Core Districtの意味するところだ。

 

TCACの隣には舞台美術の工房がある。

そのビルの壁面に描かれているペイント。

 

 

TCACとこの一帯を紹介してもらい、Meiyaにお礼を言ってTCACを離れた。私が台北に滞在している間、TCACは様々なプロジェクトの準備期間に入っており、残念ながらTCACでイベントやエキシビションを体験することができなかった。次回台北に来るときには、ここで台湾のアーティストやアートファン達と交流したい。Meiyaは「そのときまで生き残っていないとね!頑張るわ。」と微笑んだ。

 

Offshore初回記事で紹介したYAO, Chung-Hanがオーガナイズする失聲祭も、オーディエンスとアーティストがディスカッションすることが重要だと考えアーティストトークの時間がたっぷりと設けられている。現在急速に発展し、世界に向けて発信する台湾アートシーン。台湾のアートに携わる人たちが、人と人とのコミュニケーションを重要視してきたことがキーポイントだと言えるだろう。ますます台湾のアートから目が離せない。

 

台北を訪れたなら、ぜひ気軽にこのドアを入ってみてください。

気さくで台湾アートの発展に情熱を注ぐスタッフたちに出会えます。

 

 

Taipei Contemporary Art Centreー台北當代藝術中心

台北コンテンポラリアートセンター

台北市中正區延平南路160之6號
160-6, Yanping S. Road, 10042 Taipei, Taiwan 10042

※移転しました。TCAC has relocated.

10666 台北市大安區安東街19-1號

No.19-1, Andong St., Da’an Dist., 10666 Taipei

 

http://www.tcac.tw

TCACは2010年2月アーティスト・キュレーター・社会活動家などによって創立された。台北市中山区に位置している。TCACが扱うコンテンツは、アート、本、映画、音楽、パフォーマンスアート、レクチャー、フォーラム、シンポジウムなど多岐にわたる。台湾のみならず世界から気鋭のアーティストを招聘しエキシビションやFriday Barなどのイベントを展開。特にFriday BarはTCACの名物イベントで、Offshore初回記事のYAO, Chung-Han(姚仲涵)のパフォーマンスはもちろん、即興音楽ライブやアーティストを招いたワークショップやレクチャーが行なわれる。日本のアートコレクター宮津大輔さんのシンポジウムも行なわれたことがある。

Taipei Contemporary Art Centreで開催されたイベントのfacebookフォトアルバム

http://www.facebook.com/media/albums/?id=361110184877