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タイポグラフィの祝祭ソウルTypojanchi2015レポート

世界で唯一の国際タイポグラフィ展ビエンナーレ「Typojanchi(タイポジャンチ)2015」。4回目を迎えるTypojanchiには、世界各国のデザイナー、タイポグラファーが参加し、テーマは「都市とタイポグラフィ」。メイン会場はソウル駅前の、旧ソウル駅舎Culture Station Seoul 284。11月11日にオープニングを迎え、12月27日まで開催中。これからソウルに訪れる予定のある人はもちろん、訪れる予定がなかったとしても、日本から格安路線で日帰りで観に行くことも可能な距離。

 

Offshoreとして見逃せない展示、作家作品もいくつかあったため、Typojanchi 2015オープニングとともにソウルへ渡航。詳細な所感は後に別の形で発表するとして、ここでは簡単にレポートを掲載する。
また、11月21日(土)、大阪市BOCOにて開催される<ソウル国際タイポグラフィ・ビエンナーレ「Typojanchi 2015」報告会>では、今回TypojanchiでキュレーターやNewsletter Projectの顧問委員を務めた後藤哲也さん(OOO Projects代表)、デザインリサーチャーの久慈達也さん(Design Museum Lab主宰)とともに、誠に恐縮ながらOffshore山本も登壇させていただきます。

 

 

Typojanchi 公式web http://typojanchi.org/

 

( )on the Walls

ソウル駅2番出口から地上に上がると目の前に会場が現れる。会場付近や街に掲示してあるフラッグのデザインも、このTypojanchi展示のひとつであり、「( )on the Walls」として館内に展示されている。6名の海外の都市を拠点とするデザイナーがテーマ「C( )T( )」をそれぞれの解釈で表現し、それがTypojanchi 2015のポスターとなっている。弘益大学周辺にも同じフラッグが掲示されている。

 

左上は、Offshoreでも紹介した台湾台北市を拠点に活動するグラフィックデザイナー、

聶永真(Aaron Nieh)氏によるポスターでタイトルは「Lost in Translation」。

 

メイン会場、Culture Station Seoul 284に入る。入口のiPad端末ではいくつか質問に答えるとレシート型のプリント機で自分のIDと、自分へのおすすめ作品ガイドが発行される。レシートに書かれたURLにスマートフォンでログインして(要ネット環境)展示を見ながら、足下の文字を辿り答えていく。出口のiPad端末で、また自分のIDを発行して、自分への都市にまつわる“答え”のようなものがプリントされる。Typojanchiにこれから行く人は、インターネットができる環境で行くとより楽しめるだろう。(会場にはフリーWi-Fiなし。)

 

 

 

Jongno( )ga

1F奥廊下部分に展示された Jongno( )ga では、韓国の若手タイポグラファー、若手デザイナーの作品を多く見ることができる。ソウルの孔版印刷所「Corners」も参加。孔版印刷の印刷作業のみならず、Cornersを運営するチームは普段からデザインも請け負っている。

 

 

そして同じく Jongno( )ga には、Shin Dokhoの作品も設置されているとのこと。(※どの作品がShin Dokho作品だったのか特定できていません。これからTypojanchiへ行く人はぜひ、どれがShin Dokho作品なのか、ぜひ教えてください。)Shin Dokhoの最新作品は、ソウルのブルースミュージシャンHa Heonjinのカセットテープジャケットデザイン。

 

Ha Heonjin 最新作『나아진게 없네』

 

 

Newsletter Project

Newsletter Projectのコーナーには、Typojanchi 2015に向けて全5回発行されたNewsletterが積まれている。Newsletterの発行は、書店The Book Societyを運営するMediabus。編集は、Mediabus並びにThe Books SocietyディレクターのLim Kyung Yong氏。デザインは、ソウルHelicopter Recordsのリリース作品や映画『パーティー51』韓国本国でのアートディレクション(タイトル字タイポグラフィ含む)を担当したShin Dongheokと彼のパートナーによるデザインファームShinShin。全てバイリンガルで発行。

 

 

 

ASIAN TEXT/URE

そして2F ASIAN TEXT/URE はキュレーションを後藤哲也氏(OOO Projects)が担当。先ほどのShinShinはソウルで見つけた異国の地を表すタイポグラフィを、他、バンコクからは作家のプラープダー・ユン氏がビビッドなタイらしい色のタイポグラフィを、Javin Mo氏は、香港の消えゆくタイポグラフィを。それぞれその都市に根ざすデザイナーがその都市に溢れる文字を集め、計7都市、360度に配置された7つの画面で一定間隔で写真が移り変わる。北京、ベトナム、台北、バンコク、香港、シンガポール、ソウル。都市の特徴、社会や経済も垣間見え、また、それぞれのデザイナーやアーティストたちのインディビジュアルな都市への考え方も浮かび上がってくる。自分の視線次第で別の都市に瞬時にスイッチングできてしまうことは奇妙でありながら、同じアジアとひとつに括っても、それぞれまったく違った多様な文化を持つことをこの展示室内で感じさせられる。特に、あまり人のいない時間帯に、中心に立ってじっくり眺めることをおすすめ。

 

 

 

 

WORKSHOP PROJECT: A CITY WITHOUT ( )

A CITY WITHOUT ( ) では、韓国の学生による展示が集められている。学生らしく、タイポグラフィを生き生きと大胆に使った作品が目立つ。韓国のデザイン界をこれから担うであろう学生達の作品は、瑞々しく、また、そのストレートな主張や表現を楽しめた。

 

他にも注目作品は多々。推奨時間は3時間以上。じっくり展示を観てそれぞれの意図や背景を読み込むなら、数日に分けて訪れた方が良いだろう。

 

 

Open Talk

また、11月12日に開催されたOpen Talkの一部にも参加してきた。
弘益大学で客員教授を務めるKim Doosupは「街なかに溢れる、非プロフェッショナルが作った看板やサインのほうが、時として強く訴えかけることがある」と言い、多くの事例を写真で紹介。テンポよく切り替わる写真は、まるで街の「おもしろ看板コレクション」。会場から何度も笑いが起こる。

 

ASIAN TEXT/UREのトークでは、全体的なキュレーションとコンセプトについて後藤哲也氏が説明する。後藤氏も言っていたように、一般的にはユーラシア大陸のヨーロッパ以外を指す言葉がアジアであり、一部の地域を指す言葉としてアジアが的確なのかどうか。認識しておくべき言葉の定義であり、アジアという言葉の広義を捉えることで、それぞれ7都市のあまりにも違う個性と特徴を飲み込めるような気がした。


続いてASIAN TEXT/UREのプログラミングを担当した萩原俊矢氏から、360度で見せる展示のテクニカルな部分やプログラマーとしての解釈について説明があった。この展示を見たときに、自分のそれぞれの都市での体験を思い出す感覚。それは「記憶とのインタラクティブな関係をつくりだす」と萩原氏の言葉で表現された。シンプルな展示形態でありながらも、強烈にそれぞれの都市の残像が頭に焼き付いた。

 

 

 

確かに私がアジアの各都市に出かけるときも、いつもその都市の顔となる字体を見ると、再びこの街に帰ってきたと安堵する。例えば香港で、あの堂々とした地下鉄の美しい駅名(Serif)を見たとき。高速鉄道で北京に辿り着いたときの駅名表示「北京南站」(sans-serif)は、ここから迷路のような胡同に飛び込む心構えをさせてくれる。バンコクに着いてセブンイレブンに行ってみると、現地の新聞一面のおどろおどろしい事故写真とハードコアな書体のタイ語見出しに気を引き締める。

 

Typojanchi 2015ディレクターのKymn Kyungsun氏が寄せたテキストにあるように、私たちは都市で生活するうえで、視覚をタイポグラフィに占拠されている。道路標示、道案内、広告、看板、落書き、ありとあらゆる文字とその書体に。

 

ソウルでも例外なく、私は、街に溢れる広告、看板、駅の表示、バスの行き先、ありとあらゆるハングル文字に目をひきつけられている。ハングルを読めないながらも。もちろん、Typojanchi 2015はハングルを読める人の方が数十倍も楽しめる展示であることは間違いない。海外からのキュレーター、作家も多く参加しているが、全体としてはハングルを使った作品が7割以上を占めていたと思う。しかしキャプションや現在公開中のwebはすべて英語表記されているため、いったいどういった意図でそのデザイナーやタイポグラファーがその作品をつくったのか、考えと書体イメージの表現を知ることが出来る。とにかく、この場では生き生きと踊るハングルを膨大に眺めることができる。文字中毒の人たちはもちろん、文字に携わる人は、文字と都市の関係を熟考する特別な機会になる。日本に帰国してから、この祝祭での配布物やNewsletterを読み、頭のなかの残像を思い浮かべては、また会期中にソウルに行けやしないだろうか、と策略している。