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第4回「台湾の中・小規模ライブハウスはいかに2020年のコロナ禍に立ち向かったか」簡妙如

Tell the Truthにも同時掲載しています。

Tell the Truthとの共同企画による「アフターマスーCOVID-19による東アジアのポピュラー音楽文化への影響」(”Aftermath: Impact of COVID-19 on Music Culture in East Asia”)の連載記事です。

 コロナ禍の台湾におけるライブハウスはどのような状況だったのか。まずはCOVID-19が出現した初年度となる2020年の状況を中心に、簡妙如氏にテキストを寄せてもらった。東アジアの中でも台湾は、政府の防疫策が迅速で爆発的流行には至らず、かつ、文化芸術に対する大胆な支援も行われた。しかしながら簡妙如氏は楽観視しない。台湾でのフィールドワーク調査を経て、小さなライブハウスの脆さを指摘する。その指摘は、文化と商売のバランスをとりながら運営する世界各地の音楽の場において、共通の問題とも言えるのではないだろうか。(山本佳奈子)


台湾の中・小規模ライブハウスはいかに2020年のコロナ禍に立ち向かったか

文:簡妙如(台湾ポピュラー音楽研究者、中正大学社会科学部マスコミュニケーション学科教授)

※この文章は2021年2月4日に書かれたものです。

※筆者注をアラビア数字(1, 2, 3……)、訳注をローマ数字(ⅰ, ⅱ, ⅲ……)とした。

 このテキストは主に、2020年COVID-19の感染拡大によって台湾の中・小規模ライブハウスおよびその関係者が受けた影響の程度と、彼らが存続のためにどのような試練に向き合ってきたかを考察するものである。具体的には、台湾政府による防疫対策がライブ音楽業界に与えた影響、台湾政府によるインディー音楽への支援策、そして、台湾のライブハウスがコロナ禍を乗り越え存続するために必要となった要件と、ライブハウスがこの期間に実施してきた対処について検証する。結語では、ライブハウスとインディー音楽文化が脆弱な環境にあるということが、コロナ禍によって明るみになったということも顧みる。

2020年におけるCOVID-19の嵐と台湾政府の支援策

 2020年1月下旬、中国武漢から新型コロナウイルスが発生したという情報が伝わった。台湾政府と台湾の各業界は警戒しつつも、イベントのほとんどがいつも通り開催されていた。2月の時点でも、台湾各地で多数のライブや音楽フェスがいまだ開催されていたが、観客は常にマスクをつけるようになっていた。3月に入ると、海外旅行に制限がかかるとともに、台湾での感染者数も増え、あらゆるイベントが次々と中止された。

 2020年3月25日、衛生福利部疾病管制署[i]は「室内では100名以上、屋外では500名以上が集まる集会やイベント等は、開催しないよう要請する」[1]と発表し、ライブ音楽産業界に衝撃が走った。海外アーティストのコンサートのみでなく、国内アーティストのコンサートも同様に影響を受けることとなり、ほぼ全てのコンサートがキャンセルあるいは延期となったのだ。各ライブハウスでも、既に決まっていた3月以降のイベントをキャンセルせざるを得ない状況が、6月頃まで続いた。ライブハウスに絞って述べると、収入が減少し一部は営業停止となり、ライブ本数がゼロとなってしまう苦難にも直面したことから、コロナ禍の初期にあたるこの期間は「ゼロ収入の3か月」[2]とも呼ばれている。

 しかし、2020年6月に入ると台湾での感染拡大状況は落ち着きはじめ、音楽ライブも徐々に再開された。新規感染者なしの日が44日続き、台湾政府は、マスク装着を前提としながら映画館の営業とスタジアムでの野球観戦を6月7日より解禁し、人数制限は設けず、かつ飲食も可能とした。多くの県や市も、校庭や屋外空間を以前のように市民に開放した。ホテルやダンスホールからの営業再開申請も受理され、各施設は感染対策についての評価を行政から継続して受けながら、各種イベントが再開できるようになった。そして台湾全土のライブハウスも、ゆるやかに音楽ライブイベントを再開していったのが概ね6月初旬だった。つまり、台湾においてCOVID-19感染拡大の影響が比較的著しかった期間は、厳密には2020年2月から6月の期間となり、また、そのなかで最も厳しかった時期は3〜5月の約3か月間である。

政府の支援策について

 COVID-19の影響が各業界に降りかかったとき、台湾政府は各業界への支援と振興のため、GDPの5.4%を占める1兆500億台湾元[ii]の予算を編成し、そのうちの2100億元分は現金給付による支援だった[3]。ライブハウスとインディー音楽については、その編成された予算の中から文化芸術領域を担う文化部[iii]によって約67億台湾元の予算が2回[iv]に分けて支援されている。第一回は、予算15億元の「藝文紓困1.0」で、芸術文化関連事業の従事者および業務委託や外注を受ける者も申請が可能な緊急支援策だった。2020年1月15日から3月31日までの期間の経済損失に充てることができ、対象は芸術文化関連団体のみでなく個人も対象とし、とにかくCOVID-19によって受けた損失の証明ができれば損失額の3分の1が補助された。団体や事業単位の申請では、最大250万台湾元、個人申請では最大6万元の補償を受けることができた。同時に、事業単位の申請においては、感染症が蔓延する社会状況にも対応できる積極的な芸術振興をもりこんだ計画や、新規事業の創出と研究開発、そして人材育成、制作やリハーサル活動等においても補助を受けることができた。

 2回目の緊急支援策「藝文紓困2.0」は2020年4月1日に開始され、予算は52.2億台湾元であった。対象は「藝文紓困1.0」と同様に芸術文化事業の組織や団体と従事者および委託や外注を受ける個人であったが、新しく増えた補助対象項目は、「特に困難な状況におかれた事業における人件費および経費補助」だった。収入額が前年同時期の50%にまで落ち込んだ芸術文化事業は「特に困難な状況におかれた事業」とみなし、その事業従事者の賃金の最大4割(一ヶ月につき一人上限2万元)を3か月間補助することを可能とし、該当する団体における申請合計額は250万元を上限とした。また、団体が元々支払っているローン利息も補助できるものだった。この特別な補助は、芸術文化事業のなかでも比較的規模が大きなものや、人件費が多くかかる文化事業——ライブハウスを含む——において、特に役立つものだった。

 これ以外にも、台湾文化部は2020年6月11日に「藝FUN券」と呼ばれる芸術文化振興券を配布した。1枚の額面は600元で、200万枚配布したため、あわせて12億元分の振興券を配布したことになる。この金券は、「芸術文化専用で、かつ使用区域を限らない」ことを原則とし、博物館、演芸場、書店、レコード店、映画館、ライブハウス等、台湾全土で1万軒を超える施設での使用はもちろん、工芸師やクリエイターなどの個人スタジオにおいても使用でき、市民が芸術文化振興に消費で協力することを文化部が奨励するものだった[4][v]

台湾のライブハウスはどのようにコロナ禍と向き合ったか

 2020年の終わり頃から2021年初め、COVID-19が台湾にも到来してから約1年が経った頃、中・小規模ライブハウスに携わるスタッフに焦点を当ててフィールドワークを実施した。この調査は、主に台湾のインディペンデントなライブ音楽シーンとそのスタッフらがCOVID-19によって受けた影響と、この期間に彼らが行ってきた対応策、そしてその後の展開について理解を深めるために行った。私たちは、北・中・南部の代表的なライブハウスを取材した。100名以下しか収容できない小さなライブハウスである小地方展演空間(英名:APA Mini、台北市)、迴響音樂藝文展演空間(英名:SOUND Live House、台中市)、TCRC Live House(台南市)、百樂門酒館(英名:Paramount Bar、高雄市)、そして300~500人を収容する中規模ライブハウスであるTHE WALL(台北市)、PIPE Live Music(台北市)が対象である。

 コロナ禍による社会へのダメージ全体を見渡したとき、台湾政府が実施した芸術文化への支援策は、各ライブハウスの現場から見ても的を射ており役に立つものだった。これまで計2回の支援には、各種規模のライブハウス、経営者や被雇用者あるいは外注で仕事を請け負う個人、彼らのほぼ全てが申請し、すぐに支援金を受け取ることができている。

 中・小規模ライブハウスの調査について述べる前に、先んじて、チェーン展開しているライブハウスや大型ライブハウスにおいて触れておく。チェーン型のライブハウスや大型ライブハウスでは、人件費および日常の運営維持費が高く、かつチケット売上が主要な収入源となる。そんな彼らにとって政府の支援補助は「救命金」だった。Legacyグループは台湾でも最大規模のライブハウス事業者で、Legacy台北、Legacy MAX信義劇場、Legacy mini、Legacy台中という4つのライブハウスを持つ。台湾ライブハウス産業全体のうち約半分となる1億台湾元もの収益を上げていることが知られており、4施設合わせれば毎年平均400回にものぼる大小のイベントが開催されていた。2020年2月、COVID-19が台湾で爆発的に流行し、イベントの中止あるいは延期が要請された際、Legacyグループ4施設の損失総額は2か月間で2000万元以上にも達した。文化部が「藝文紓困1.0」を発表した折、Legacyはすぐに月間補助最高額となる250万元を申請し、それによって家賃や従業員給与の一部が補助された。「藝文紓困2.0」においては、従業員人件費の4割に加え3か月間の運営経費が上限なしで補助され、窮地を免れた。Legacyのマネージャーは、「いわゆる救命金は、営業ができず収入が得られなかった期間に充てることができました。しかし我々は、この命がなんとか持ちこたえるよう願っているしかない状態です」と語っている[5]

 実際に、台湾北・中・南部の代表的な中・小規模ライブハウスを訪問して話を聞いた。どのライブハウスも政府による支援補助に申請済みで、申請にかかる作業は便利で難しくなかったこと、補助金は確実にライブハウスの支援になったということを共通して述べていた。補助を受けたライブハウスやライブハウスに雇用されている従業員以外にも、例えばライブハウスに協力する仕事をしている音楽家や、ライブハウスから外注を受ける照明、音響の技術エンジニア等が、3か月間で平均3万元となる個人向け手当を受けることができた。政府は支援策の発表とともに、支援条件として「従業員を解雇せず、転職させない」ことも伝えていたが、どのライブハウスもそれを守っていたようだ[6]。経営者に解雇や異動をさせないことにより、施設や個人それぞれの実質損失額が明確になるうえ補助申請書類の審査および補助金交付も非常にスムーズに行われるのだ。

 しかしながら、中・小規模のライブハウスはみんなが同じ方式で運営しているわけではなく一括りにはできないし、政府の支援が及ばない部分において受けたダメージの程度はそれぞれ違う。またそれは、平常に戻ったときに、インディペンデントなライブハウスと音楽文化における死活問題として現れてくるのだということに、我々は調査のなかで気づくこととなった。

1.海外ミュージシャンや学生ホールレンタルイベントのキャンセルによる影響

 例えば中規模ライブハウスである台北のTHE WALLとPIPEでは、海外ミュージシャンのイベントキャンセル、学生団体によるホールレンタルのキャンセルが最も大きなダメージとなった。平常時、これらのライブハウスの主要な収入はチケット収入とホールレンタル料である。COVID-19が蔓延した期間は100人以上のイベントが開催できず、THE WALLでは2020年3〜5月に36本のイベントを中止しており、3か月間の累計損失額は100万元を超えた。過去数年間にわたって、THE WALLはLegacyなどと比較しても海外のインディー系ミュージシャンの公演が行われることが多い重要なスペースとなっており、例えばイースタンユース(2013年)、Yo La Tengo(2016)、The Notwist(2018)、Yogee New Waves(2019)等、欧米や日本から来るバンドはここで演奏し、そして「聖地」[7]と称揚されることによってより良い経営が維持されている。海外ミュージシャンのイベントはその期間のうちに約25本中止となっており、THE WALLにとっては大きな痛手だった。台湾の防疫政策が適切で6月以降は元の生活に戻ったということを評価したとしても、海外からのミュージシャンは1年間にもわたって台湾に来ることができていない。国内のメジャーなアーティストの興行を打つLegacyよりも痛手を受けており、また、THE WALL自体の昨年同時期の営業収入と比較した場合でも、やはり損失は明らかで、政府の支援金額の上限を超過している。したがって、THE WALLは2020年6月より正社員スタッフの給与の3分の1を減給せねばならず、現時点もまだ回復できていないとのことである[8]。一方PIPEの場合は、通常の音楽イベント中止の他に、学生ホールレンタルのキャンセルによって大きな損失を被っている。学生からのホールレンタル料が主な収入源だったPIPEは、台北市教育局が学生バンドの成果発表会を全て中止したことにより、特にダメージを受けた。

2.バー売上を主要な収入とする小さなライブハウスについて

 

 中規模や大規模のライブハウスと比べると比較的小さく、バーと組み合わせた営業形態のライブハウスが台湾には一定数ある。これらのライブエリアのキャパシティは概ね100名以下のため、COVID-19の影響はさほど大きくはなかった。台北のRevolver、高雄の百樂門酒館(Paramount Bar)は、どちらも1階はバーとして営業し収入を得ており、その収入が2階の小規模なライブスペースの営業を支えている。COVID-19が蔓延した2020年3月〜5月の期間はもちろんライブを取り消すこととなったが、バーの売上収入がゼロになったわけではなく、他の大規模、中規模のライブハウスのように完全ゼロ収入の苦境に陥ることはなかった。また台中の迴響音樂藝文展演空間(SOUND Live House)は、2019年11月に市街地に移転しており、Revolverや百樂門酒館と同様に1階をバーレストランとし2階を小さなライブスペース(わずか50~80名のキャパシティ)としている。政府が100名以上のイベント中止を要請した際、迴響音樂藝文展演空間の観客はいつでも100名を下回ることから、ライブの実施に影響はなかった。高雄の百樂門酒館もバーの営業収入を2階のライブハウスの損失に充当していたので、ライブができない期間でも赤字になるには至らず、少ないながらも収入があった。もちろんバー営業にもCOVID-19の影響はあったものの、これらのライブハウスが受けた影響は閉店の危機に至るものではなかった。百樂門酒館の大家は、状況を鑑みて家賃を引き下げ(執筆時点も5%引き)、百樂門酒館は政府の支援に申請し、コロナ禍にスタッフ研修を行うことができた。また、台南の小さなスペースTCRC Live Houseにおいても、TCRCバー(Bar TCRC)の営業がうまくいっており主要な収入源となっていた。4月はたった2回のライブしか開催できなかったが、キャンセルとなったライブはなく、「なぜかというとライブの観客はもともと少なくて、みんな3メートルの距離を保ってるから」とスタッフは言う[9]。つまるところ、台湾で100人以上を収容する中・大規模ライブハウス施設は、3月下旬以来ほぼ停止し静かに息を潜めることとなったのだが、100名程度しか収容できない会場——台北の小地方展演空間、女巫店、Revolverなど——は、ライブの開催を継続していたということになる。

3.リベンジ消費と音楽フェスの反動

 しかしながら、COVID-19が蔓延した期間からその後の緩慢期にかけて、中・小規模のライブハウスは思いもよらない反動に直面することとなった。例えば台北にある小地方展演空間(APA mini)の場合、2020年初期に経営者が変わっており、COVID-19蔓延の最初期には正式な営業が開始されていなかったことによりあまり影響が大きくなかったが、2020年5月から7月にかけて、退屈した音楽ファンたちによる「リベンジ消費」を受けてライブ収入が大幅に上がった。台中の迴響音樂藝文展演空間でも、6月には音楽ファンが殺到し収入が上がった。しかし7月が終わると、満を持して音楽フェスが各地で開催されるようになり、音楽ファンはリベンジ消費の方向を音楽フェスに変え、今度はライブハウスの売上が落ち、またしてもライブハウスに危機が訪れた。音楽フェスが盛んになることでライブハウスの収入が下がる。これこそ、台北以外の台湾各県市においては、まばらに1〜2軒のライブハウスしか生き残っていくことができないという実態である。もうひとつ、コロナ禍による反動として指摘しておくべきは、音楽を最下層で下支えする人材の断絶の危惧である。中・小規模ライブハウスのスタッフ——例えば照明、音響、チケットカウンター、さらには企画担当まで——のほとんどが委託を受け複数の業務を請け負いながら働いている身分であり、正規職員ではなく、今回のようにライブの中止や減少があると、仕事が減り、生活に影響する。彼らの多くは生活を維持するために、コロナ禍に音楽ライブ以外の別の仕事を入れなければならなくなる。そうすると、人材は他の業界に取られ、今度はライブ音楽業界の人材不足によりライブが減り、また後進を育てる機会も減ることとなる。長期的にライブが減少することで、新生バンドが小さなライブハウスで演奏する経験や、照明・音響など技術者の現場研修、才能を見出す嗅覚をもったブッカーや企画担当者の実践等、未来のインディー音楽を支える人材育成の機会を失ってしまい、次の世代につながらず、断絶してしまう。

音楽レーベルとライブハウスの共同アクション

 しかしCOVID-19が蔓延した期間において、台湾の音楽シーンでは共同体によるクリエイティブな行動があった。主なものを紹介すると、「Cancelled巡迴取消」および「WAU! Vol.1 – 防疫新生活」である。

 2020年4月末、インディーレーベルの空氣腦(AirHead Records)は、レーベルに所属するバンド無妄合作社(No-nonsense Collective)とDeca Joinsによる、まだ開催できるかどうかわからないライブツアー「Cancelled巡迴取消」の物販Tシャツを販売する計画を進めた。2020年6月から7月にかけて、無妄合作社は全11公演、Deca Joinsは全13公演の台湾北・中・南部を巡るツアーを計画しており、それはちょうど全台湾のインディペンデントなライブハウスを回るものだった。空氣腦レーベルと2つのバンドがファンに呼びかけたのは、各会場のチケットの代わりにTシャツを事前に買ってもらい、それぞれの会場でのライブが開催されるかどうか、しばらく待ってもらうことだった。ツアーのポスターには、日程と会場にわざと取り消し線が引かれ「Cancelled」と記されている(図1、2)。もし、ポスターの通りCOVID-19の影響でライブができなくなったら、ファンが買ったTシャツ一枚の売上のうち50%がツアー予定会場のライブハウスに支援として支払われ、残りの50%がTシャツ製作代と送料である。もし、ライブが中止とならず開催できることになれば、各ライブ会場のチケット発券がなされ、ライブハウスもバンドも平常通りにライブを実施でき、Tシャツ購入者はライブを見ることができる。ちなみに、台湾の防疫措置が功を奏したことにより、最終的には「Cancelled 巡迴取消」ツアーのうちほとんどのライブが無事開催され、音楽ファンの熱烈な支持を得た。ライブハウスが観衆を取り戻すことに成功し、「消費者がお金を払ってライブを見に行くという習慣」を固めることにもつながった[10]。この一連のアクションは、音楽シーンの人々からクリエイティブで有意義だと認められ、バンド・音楽ファン・ライブハウスの3者がそろって得をする企画だった。

無妄合作社「2020 “Cancelled” Tour」ポスター

図1:無妄合作社「2020 “Cancelled” Tour」ポスター

図2:Deca Joins 「2020 “Cancelled” Tour」ポスター

図2:Deca Joins 「2020 “Cancelled” Tour」ポスター

 他にも、台北のライブハウスTHE WALL、小地方展演空間、樂悠悠之口光復南(The UU Mouth)の3店舗は、6月の連続した3週間の週末に、インディー音楽文化をサポートするための「WAU! Vol.1 – 防疫新生活」というイベントを企画した。3週間で合計18回のライブが行われ、人気の高いインディーバンドが演奏した。2400台湾元でフリーパスも販売し、フリーパス購入者は期間中いつでもどの会場でもサーキット形式でライブを見ることができ、そのうえ単体のチケット購入者よりも優先的に入場できる仕組みだった。結果的にフリーパスを買う人は少なかったが、音楽ファンたちは各ライブに押しかけ、チケットが完売したライブも少なくなかった。2020年のコロナ禍に台湾のライブハウス同士が協力しあったイベントでもあり、「行政支援とは別の、ミュージシャンとライブハウスにとって最も堅実的なサポートだった」と評価されている[11]

 また、高雄市政府が運営する高雄流行音楽中心(Kaohsiung Music Center)では、「零時起義」(0時蜂起)というポストコロナ時代の音楽イベントシリーズが6月に始まった。このイベントシリーズ主催の高雄流行音楽中心は、Facebookページ上で毎日0時にライブ情報のヒントを発表する。そのヒントをもとに、音楽ファンたちはコメント欄でそれぞれの予想をもとに議論をし、ライブへの期待を高める。また、新規感染者ゼロの維持がライブ実施の前提となることから、ライブ実現を叶えるために音楽ファンは防疫に対する協力意欲も高める[vi]。このようなしくみで開催された「零時起義」の第一回目、6月20日に開催されたライブでは、高雄で主に活動するバンド拍謝少年と淺堤(Shallow Levée)が出演し、800名近くの観衆を高雄流行音楽中心内にあるLive Warehouseに集めた。このイベントシリーズは、音楽ファンを強烈にひきつけ、音楽ファンたちを再びライブハウスに戻らせることに成功した[12]

結語

 全体を眺めると、台湾のライブハウスは2020年の上半期のみ影響を受けていたかのように表層的には見えるが、フィールドワークで実際に各地を訪問し話を聞くと、ライブハウスは長期的で日常的な存続問題に対峙していることがわかった。

 まずは、COVID-19の蔓延が、台湾におけるライブハウスの脆弱な環境をさらけだした。密閉空間となってしまう恐れがあるライブハウスは、感染症がひとたび蔓延することでその運営の危機に目が向けられるが、ある台北市議員は、台北のライブハウスがそもそも年を経るごとに減少していたことを指摘している。2014年に10軒しかなかった台北市内のライブハウスは、2016年には21軒と増加していたが、2020年の4月には11軒にまで減少してしまった[13]。またある者は、2008年から2010年のあいだに300人から500人を収容するライブハウスが台湾北・中・南部の各地に増加したことを指摘している。それは行政が運営する文創園区の中にあるものも含まれており、官民さまざまな業者が2010年までに中・大規模のライブハウス経営に乗り出した。それ以降、音楽イベントは規模が大きくなる傾向にあり、そうするとファンも大規模な音楽ライブに足を運ぶようになり、200人以下や100人以下の小規模ライブハウスの観客を減らすこととなった。これは、台湾の音楽シーン全体を見た場合、音楽シーンの発展にとってむしろ不利なことが起こっていると言える[14]。中型以上のライブハウスの競争にプレッシャーがかかり、経営状況はますます厳しくなっている。

 次に、台湾インディー音楽シーンの当事者たちの意識が、依然として弱い。台湾におけるCOVID-19の感染状況はひどくはなく、政府からのインディー音楽に対する支援もあった。しかしながら、ディレクター、クリエイター、スポンサー、パブリシティー、技術、レコーディングエンジニア、会場および音楽ファンというインディー音楽に関わる全ての者が、長期的で健康的なシーンの維持と発展のため、共同体であるという意識を持って良い状況をつくっていかなければならない。日本のミュージシャンや音楽関係者たちがコロナ禍において自助活動として展開したSave Our SpaceやMusic Unites Against Covid-19は、立ち上げが素早く、音楽ファンたちに全国のライブハウスをサポートするように呼びかけた。こういった日本の動きと比べると、台湾の音楽に関わる人々が政府の支援に頼るしかなかったことに、深い憂慮を感じる[15]

 私たちは、ライブハウスが音楽シーン発展のための重要な基盤であるということを軽視することはできない。中・小規模の音楽ライブハウスは、若いバンドを育成し、地方の音楽ファンも育て、インディーレーベルがツアーマネジメントのノウハウを得るための試練の場でもあり、A&Rやブッカーの能力を多角化する場でもある。いかにインディー音楽シーンとライブハウスを息の長いものにしていくか。これは、感染症の流行とともに音楽消費のオンライン移行が進み、現場の消失が見られる時代であるからというわけではなく、台湾のインディー音楽業界、つまり、ミュージシャンも音楽ファンもスタッフもライブハウス経営者も含む全員が、共に向き合うべき重要な課題である。

(日本語訳:山本佳奈子)


[1] 衛生福利部疾病管制署(2020年3月25日)「避免群聚感染,建議停辦室內100人以上、室外500人以上集會活動」 https://www.cdc.gov.tw/Bulletin/Detail/OGvZ8a1qdqdNo5mUgeaOqw?typeId=9 (2022年3月25日アクセス)

[2] 徐韻軒( 2020年4月27日)「零收入的三個月——獨立音樂演出產業如何面對新冠肺炎疫情?」『吹音樂』https://blow.streetvoice.com/49379/(2022年3月25日アクセス)

[3] 謝佩玲(2020 年 4 月 2 日)「一圖看懂各國紓困方案 行政院合計台紓困規模達1兆台幣」『新頭殼newtalk』 https://newtalk.tw/news/view/2020-04-02/385499 (2022年3月25日アクセス)および 林麗玉(2020 年 4 月 7 日)「各國使洪荒力紓困 業者嘆:我國1兆500億太不夠真實」『聯合新聞網』https://udn.com/news/story/120974/4473161 (※訳出時点でアクセス不可)

[4] 吹編輯(2020年6月10日)「文化部加碼「藝FUN券」600元可用於Live House、唱片行」『吹音樂』 https://blow.streetvoice.com/50004/ (2022年3月25日アクセス)

[5] 徐韻軒(2020年4月27日)「零收入的三個月——獨立音樂演出產業如何面對新冠肺炎疫情?」『吹音樂』https://blow.streetvoice.com/49379/ (2022年3月25日アクセス)

[6] 当調査でのPIPEのイベント企画担当者および空氣腦(Air Head)レーベル主宰へのインタビューによる(2020年6月29日聞き取り)。

[7] ここで指摘しているTHE WALLを「聖地」と呼ぶ音楽ファンたちは、特に国際的に有名なバンドや伝説的な海外バンドがやってくるライブハウスであることからそう捉えている。しかし、これらのファンたちは地元台湾のミュージシャンについては同様の熱心さを見せないものである。

[8] 当調査でのTHE WALL音楽ディレクターSpykeeへのインタビューによる(2021年1月7日聞き取り)

[9] 以上はみな当調査での次のライブハウスへのインタビューによる。百樂門酒館(2021年1月14日聞き取り)、迴響音樂藝文展演空間(2020年12月19日聞き取り)、TCRC Live House(2020年4月6日聞き取り)。

[10] 徐韻軒(2020年4月28日)「辦一趟可能取消的巡迴?deca joins、無妄合作社公布「Cancelled巡迴取消」T-Shirt販售計畫」『Blow吹音樂』 https://blow.streetvoice.com/49414/ (2022年3月25日アクセス)

鹹派(2020年7月17日)「專訪獨立樂團deca joins:北風蕭蕭巡迴取消,如何拯救音樂表演產業「撐場館」?」『關鍵評論』 https://www.thenewslens.com/article/137376 (2022年3月25日アクセス)

[11] 徐韻軒(2020年5月27日)「防疫措施將鬆綁!無妄合作社巡迴釋出票券 三場館推十八場企劃演出」『Blow吹音樂』 https://blow.streetvoice.com/49821/ (2022年3月25日アクセス)

[12] 鹹派(2020年7月2日)「【後疫情時代/獨立音樂、演唱會】從大放異彩變成救亡圖存,政府該如何「引導市場歸位」?」『關鍵評論』https://www.thenewslens.com/feature/post-covid-19/136755 (2022年3月25日アクセス)

[13] 郭安家(2020年6月8日)「疫情重創Live House 北市議員提案紓困」『自由時報』 https://news.ltn.com.tw/news/life/paper/1378151(2022年3月25日アクセス)

[14] Spykee Jin Facebook(2020年4月22日)「疫情趨緩之後呢?:關於 live house 之二」https://reurl.cc/NjlnXq

Spykee Jin Facebook (2020年4月24日)「日本業界狀況如果發生在台灣會怎樣呢…」  https://reurl.cc/Kklqxm

[15] Spykee Jin Facebook(2020年4月22日)「疫情趨緩之後呢?:關於 live house 之二」https://reurl.cc/NjlnXq


[i] 衛生福利部は日本の厚生労働省にあたり、疾病管制署は防疫対策を実施する部門。

[ii] 2021年2月4日(執筆時)におけるレートは1台湾元=約3.73円。1兆500億台湾元は約3兆9000億円。

[iii] 日本における文化庁にあたる。

[iv] 後述される文化部による支援事業「藝文紓困1.0」「藝文紓困2.0」の2回を指す。ちなみに、記事執筆から約4か月後の2021年6月には、コロナ禍における3回目の文化支援となる「藝文紓困4.0」の支援補助申請受付が始まり、これには45.49億台湾元の特別予算が編成された。4.0の前に「紓困3.0」も実施されたが、これは文化ではない他の分野(観光や製造、貿易等)を対象としている。参考:台灣文化部「文化部公布「藝文紓困4.0」補助須知 曾獲藝文紓困補助自然人6月4日3萬元直接入帳」 https://www.moc.gov.tw/information_250_129947.html (2022年3月25日アクセス)

[v] その後、2021年10月にも額面600台湾元の「藝FUN券」が300万枚配布されている(デジタルアプリ版240万枚分とチケット版60万枚分)。獲得を希望する全国民が対象で抽選となる。参考:行政院振興五倍券「藝FUN券」 https://hpm.5000.gov.tw/cp.aspx?n=206 (2022年3月25日アクセス)

また、芸術文化分野以外にも、食事や旅行、教育、地方創生など、各省庁の元で振興券が配布されている。参考:行政院振興五倍券「總覽」 https://hpm.5000.gov.tw/cp.aspx?n=211 (2022年3月25日アクセス)

[vi] 「零時起義」(0時蜂起)の概要については、訳出時に以下のウェブ記事から補った。高雄流行音樂中心「高流「零時起義」,後疫情時代用音樂來集氣」 https://kpmc.com.tw/newslist/%e3%80%90%e6%96%b0%e8%81%9e%e7%a8%bf%e3%80%91%e9%ab%98%e6%b5%81%e3%80%8c%e9%9b%b6%e6%99%82%e8%b5%b7%e7%be%a9%e3%80%8d%ef%bc%8c%e5%be%8c%e7%96%ab%e6%83%85%e6%99%82%e4%bb%a3%e7%94%a8%e9%9f%b3%e6%a8%82/ (2022年3月25日アクセス)