2015年3月24日、ソウルのセレクトブックショップThe Book SocietyにてOffshore山本佳奈子がトークセッションに登壇。企画はHelicopter Records主宰、自身もノイズミュージシャンとして活動するPark DahamとThe Book Society。通訳はPark Sunyoung。以下、当日の録音データを元に、そのままの口語表現では分かりづらい部分は編集した。
※上写真:The Book Societyの一角。
美しいハングルのタイポグラフィーや、美しいデザインの本、雑誌、zineなどが並ぶ。中には音楽コーナーもあり、Helicopter Recordsやソウルの実験音楽家たちの音源も並ぶ。ちなみに、Helicopter Records主宰のPark DahamはいつもCDパッケージのデザインにこだわっており、音楽関係者でありながら、ソウルのデザイナーたちと協働することが多い。ソウル音楽界隈において、独特のネットワークをもつ人物だ。
30人ほどの方に集まっていただき、とても有意義な会になったと思う。アジアの中では、島国日本のみならず、韓国も大陸とのあいだに北朝鮮を挟むので、文化や人の流れがスムーズではない。そしてお互い独自の言語を持つので、海外に向けて発信するときの難しさや状況は似ているのかもしれない。何度も登場したトピック、「多言語での発信」。今後、Offshoreのwebをリニューアルすることも視野に入れているので、その際はぜひ、日本語を話さない人もアジアの情報が読み取れるようなサイトを作ることができればと思う。ソウルのみなさん、刺激になりました。ありがとう!そして今後も情報交換を進めていきましょう。
イベント紹介ページ
『일본과 아시아 국가들의 차이 The difference between Asian countries and Japan』
http://thebooksociety.tumblr.com/post/113864494878/3-the-difference-between
The Book Society
http://www.thebooksociety.org
서울시 종로구 통의동 13번지 2층
2F, 13, Tongui-dong, Jongno-gu, Seoul, Korea
110-040
Helicopter Records
http://helicopterseoul.tumblr.com
The Book Societyの入り口。
ロゴは、ソウルの女性グラフィック・デザイナー、Na Kim氏によるもの。
〜Park Dahamのあいさつによって始まる〜
まず、山本佳奈子と申します。今日は皆さんお越しいただいてありがとうございます。私は、DIYでアジアのカルチャーにおけるリサーチプロジェクトを始めました。今日は自分の自己紹介と、私が見てきたアジアのカルチャーについて話します。みなさんがアジアのカルチャーのどういった部分に興味があるかも知りたいと思っています。60分間、まずは私からお話して、少し休憩を挟んで、Q&Aディスカッションを行ないたいと思います。
まず、私は31歳なんですが、高校を卒業した後、音楽の専門学校に通い始めました。専門学校に行くと同時に、ライブハウスで働くようになります。拠点が大阪なので、大阪のライブハウスで働いていました。もう10年前ぐらいです。当時は、インディー音楽最盛期から比べると、ブームが落ち始めたとき。仕事も、翌朝の5時まで働くことも多く、体力的に辛かったです。日本人らしいとみなさん思うかもしれませんが(笑)。私は、音楽は本来楽しいもので、楽しいことを提供する立場なのに、自分が健康的に良くない状況であることはおかしいと思って辞めました。病気にもなってましたし。そして、音楽の世界からは退いて、音楽に関わらない、普通の職場で働くようになります。いわゆる、9時から6時の出勤をする普通の会社。そういうところで働くと休みが取りやすいので、元々、10代後半から好きだった旅行に再び出かけるようになります。
そして、東京のUPLINKという映画館があるんですが、UPLINKがwebDICEというウェブマガジンを運営しています。まだライティングはしたことなかったのですが、そのウェブマガジンでライターとして連載を書かせてもらえることになりました。そこから、旅行に行って、何かを調べて、レポートをする、ということを始めました。(スクリーンに投影して)これが、webDICEというサイトです。
http://www.webdice.jp
キューバに行ったり、アジアに行ったり。アジアに行ったのが2011年で、こういったレポートをアップしています。
アジアン・カルチャー探索ぶらり旅
http://www.webdice.jp/dice/series/36/
この『アジアン・カルチャー探索ぶらり旅』。なんでこのときアジアに行ったかと言うと、その当時お金が貯まっていなくて、一番安く行けるアジアに旅行に行くことに決めました。中国や、アジアに行くと決めて、じゃあ現地で何をしよう?と考えたとき、「じゃあ日本にいるときと全く同じことをしてみよう」と思ったんです。私は大阪にいるときは、ライブハウスに行って、映画館に行って、ギャラリーに行って、そういう行動をしています。アジアに行く前に、インターネットで下調べをしました。そうすると、ライブやバンド、カルチャーの情報、何もかもが日本語でインターネット上で見つからないことに気づいたんです。でも、英語で調べたら出てきたんです。それで英語で調べて、現地でなんとかリサーチをしました。この旅行は、2011年3月10日から始めて、3月11日に上海で震災のニュースを知ります。曖昧な表現なんですけど、震災後の状況を海外から見ていると「もう日本ダメだ」と思ってしまって。情報に凄く惑わされている人たちをインターネット上で見ていて、ちょっと怖くなりました。そういった、日本にネガティブなイメージを持ったなかで、そのまま旅行は続けました。そして、現地でどんどん友達ができていったんですね。アジアのクリエイター達を見ていると、日本よりも柔軟で、面白いアイディアが多いなと思いました。
私は、震災に対して、フクシマの後の日本に対して何が出来る、とか大きいことは考えてないんですけど、日本以外のアジアのクリエイターの考え方や柔軟さを日本に少し取り入れることによって、もう少し日本が良くなればいいかなと思ってやっています。これが、Offshoreの元。アジアをリサーチし始めた、リサーチを続けることになったきっかけです。そして、「I’m not a hippy」とスライドに書いていた理由を説明し忘れたんですけど(笑)、私は社会と向き合うことが大事だと思っていて、旅行して、自分の目で見てきたことを日本の社会に伝えようと思ってやっています。
特にこの(スライド)3つめなんですけど、日本以外のアジアで、音楽イベントのオーガナイズをしている人たちって、だいたい国を越えて繋がっていることに気づいたんですよ。タイ、香港、マカオ、台湾、中国、マレーシア、たまにフィリピンも、そのあたりのオーガナイザー達は、イギリス、アメリカ、日本のバンドなどがアジア地域にやってくるときに、そのオーガナイザー達が連絡を取り合って、アジアツアーを組んだりするんですよ。その中に入っている1人が、このKoichi Shimizuっていうタイに10年以上住んでいる日本人で、彼が私にそのネットワークを教えてくれました。みんなツアーの話がきたら話をまわしたりして、「なんで日本だけそのネットワークに入ってないんでしょうね」っていう話を、このwebDICEのインタビューで話してもらったりしました。それがまさしく、私をOffshoreをやっている動機ですね。
今やっていることをざっと紹介します。まず、インターネット上の記事。そこに関連してtwitterやfacebookでアジア各地の小さいイベントの情報等もアップしています。あと、表には出ない裏の動きなんですけど、コーディネイトのようなこともやっています。そして、イベントの企画制作、音楽イベントやトークセッションもやっています。「Do it youself if you can」ということで、できるだけ、自分でやれることは自分でやろう、っていうスタンスでやっています。今、SNS、twitterやfacebookをみんなが使っている時代なんで、個人でもしっかりと制作していけば、大きいメディアと比べても劣らない、個人メディアになれるんじゃないかなと思っています。
私は普段、アルバイトをしています。それがメインの収入です。
あと、目的。日本のなかでは、「アジアは世界から見て最先端ではない、遅れている」というイメージがいまだにあると思うんです。日本人は、「私はアジア人ではない」と思っている人もいるんじゃないか?と思っています。なので、草の根で、アジアを日本にもっと浸透させていきたい。そういったこともあって、私が今ブランディングとして考えていることは、Offshoreではアジアの伝統的な文化を紹介することは極力しません。今、最先端。20代の子たちや若い人の動きを紹介するようにしています。例えば、タイのロックバンドで、こういう音楽があります。
こういう感じで、どこにでも、日本にもヨーロッパにもありそうなロックとかを紹介しています。ただ、私は昔のものが嫌いな訳ではなくて、別の方向でアプローチしようとしてますね。なんと言うか、前衛的なものを、紹介するようにしています。今かけているPLOTはタイのバンドですけど、例えば、日本でTOWER RECORDSにタイのバンドの音源を納品すると、TOWER RECORDSのバイヤーさんが「タイ」という出身地で分類してしまって「ワールドミュージック」のコーナーに入っちゃうんですよ。周りにはタイの民族音楽が並んでいます。そういったイメージを変えたい。
はい、ここまでが私の行なっていることの概要で、ここから、私が面白いと思ったアジアの動きを紹介します。
広告とネットとデザインを味方につける-台湾メディアムーヴメント:Media-Movement in Taiwan
Parkさん、この記事のタイトルを韓国語で翻訳してもらっていいですか?台湾のこの動きをみんな知っているかどうかを聞きたいんですけど、2014年の春に、台湾では「ひまわり学生運動」という運動がありました。あれ?みなさん、知らない?
(1人が「ニュースで見ました」と回答)
じゃあ、ここで今知っている方は1人だけ?そうですか……。まあ、日本でも確かにあまり知られているニュースではないと思いますが。
でも、説明大変だなあ……(笑)。
Park Sunyoung:政治的な問題ですよね?
そう、要は、学生が動いた政治運動。簡単に説明します。台湾政府は中国の経済が強いこともありますし、中国と貿易協定を結ぶことになったんです。その協定を知った学生たちが、デモ運動を起こしました。この写真、これは台湾の国会なんですけど、国会を学生たちが占拠したんです。もう2ヶ月ぐらい占拠してましたね。そういった運動があって、台湾のクリエイター達も、自分の専門分野で運動に参加していく、っていう動きが見られました。
例えば、これはアメリカのニューヨークタイムス。アメリカの新聞に広告を出したんです。
広告を出すことってお金がいるじゃないですか。どうやってそのお金を出したか。台湾にも2ちゃんねるのようなサイトがあって、運動の最中に「今私たちは何が出来るか」ということを掲示板サイト上で話し合っていた人たちがいたんです。その人たちが、「みんなでお金を出し合って海外の新聞の広告枠を買おう」と言い始めました。数千名からお金が集まって、その話をまとめていたデザイナーたちが、実際にこの広告をデザインして、NYTの広告枠を買いました。彼らは、広告であるとか、メディア、そういったコマーシャルな手法を使いながら、自分たちの問題を解決しようとした、と言う話。台湾国内の新聞にも、広告枠を買って広告を出したりしています。デザインした人の1人が、アーロン・ニエというデザイナーで、台湾のトップグラフィック・デザイナー。台湾ではカリスマ的なデザイナーで、彼は率先して学生運動をサポートしました。
私がこの動きを面白いと思った理由は、日本では、成功しているデザイナーが政治的な動きに参加することがまず有り得ない。台湾では、クリエイターこそ政治的、社会的な動きに参加しないといけないという風潮、空気を感じますね。この記事は、アーロン・ニエとメッセージでやり取りして、彼がどういう形でこの運動に関わったのか、インタビューしています。詳しいところは、興味があれば、Google翻訳で翻訳してもらえると。日本語と韓国語は翻訳が比較的正しいので。これが、私が台湾ですごい!と思ったこと、でも日本では、ないことですね。そして少し似た事象ですが、そのアーロン・ニエがずっと表紙デザインをしている雑誌があって、韓国でもあるビッグイシュー。表紙がこういったデザインです。facebookで見られるのですが、これ。
THE BIG ISSUE TAIWANのFacebookページのフォトストリーム。
https://www.facebook.com/bigissue.tw/photos_stream
Park Sunyoung:韓国のビッグイシューとぜんぜん違いますね。
そうなんだ。コンテンツも、台湾はちょっと違うんです。アートやカルチャーのイベント情報が入っています。編集部とコンタクトを取ったことがあるんですけど、編集長が自らイギリスのビッグイシュー本部に行って、「台湾のビッグイシューを出させて下さい」ってお願いしたんですよ。台湾ビッグイシューは、「ホームレスを支援する」という大きな目的をちょっと横に置いておいて、まずは、「面白い雑誌を作る」ことに力を入れています。韓国も一緒だと思うんですけど、台湾でもホームレスのおじさんが街角で売ってるんですよね。若い芸大生っぽい、オシャレな子が、台湾ではビッグイシューを買っていきます。韓国はどうですか?台湾では、定期購読するぐらいの人もいますね。台湾のビッグイシュー編集部には、日本のトークセッションでSkypeで繋いで話してもらったことがあります。大阪に本部のある日本ビッグイシュー編集部の人も来てもらったんですけど、上手く繋ぐことができなかったですね。ただ、日本だと、あまりにカッコいいデザインのビッグイシューが出来たとしても、ちょっとオシャレすぎてみんな買いづらくなるのかな?とも思ったりしましたね。
では次のトピック。
タイの特殊な音楽フェス“STONE FREE”ータイバンドシーンを支えるオーガナイザー3人に会ってきた。
タイの話です。タイでフェスティバルをオーガナイズしている3人の男の子にインタビューを取りました。みんなそれぞれ、別でバンドをやりながら、普段の仕事も持ちながら、1年に1度、大きなフェスティバルを企画しています。この写真、わかりにくいかな?こういう環境。
全面が岩に囲まれた場所。岩にぶつかって返ってくる反響が面白いからここを選んだ、とのことでした。2014年1月の、このSTONE FREE MUSIC FESTIVALには1000人ぐらいが来ています。1000人ってそんなに多くない人数だと思うんですけど、タイはスポンサーが付く音楽イベントがメインで、そうなるとプロモーターが絡んできて、いわゆる、普通のフェスティバルになっちゃう。彼らは彼らの理想を求めて自分たちでフェスを作っていて、それが面白いなと思います。彼らが言っていることいくつか紹介します。タイはいっぱいバンドがいるんですよね。でも、それぞれ、仲の良いグループで分かれてしまっている、と。お客さんもバンドも、それぞれのコミュニティの中にいるだけで、他のコミュニティを知らない。彼らはそれをミックスしたい、と言っています。仲の良い人だけで同じお客さんに向けてやっていても意味がないから、彼らはあえて違うコミュニティからそれぞれバンドをピックアップしてきて、ここに出演させます。今このフェスティバルにスポンサーはいないし、これからもスポンサーを付けようとはしないと思います。タイでは、無料コンサートが多いんですよね。ショッピングセンターの前とかで、有名なバンドが、企業スポンサーの付いているイベントに出ています。お客さんは音楽にお金を払うという感覚をあまり持っていなくて、でも、彼らオーガナイザー達は、お客さんに理解してもらわないといけない、と。彼らはお客さんをスポンサーと考えて、少しチケットはタイでは高めですが、それを払ってもらって見に来てもらう、と。タイは天気がまったく違いますが、屋外なので、乾季じゃないとできないんです。今は、彼らは別の会場を探しています。事情があってこの岩の場所はもう使えないらしくて。日本でも、私の友達でこれに近いフェスティバルをオーガナイズしている人はいるんですが、日本の音楽は、ここまで自由にできないかなとも思います。例えば、このフェスティバルでは、有名バンドも無名バンドも、一律の交通費しか渡さないんです。日本じゃ一律っていうのは無理かな……。
セルフレポート『香港でライブハウスを運営するということ』東京編
次は、香港に。香港のライブハウス、Hidden Agendaという名前です。このライブハウスがドキュメンタリー映画を作ったので、私が日本で上映会を企画しました。香港の風景が見られるので、予告編を見てみましょう。
香港は、家賃がすごく高い。東京よりも高い。でもこのHidden Agendaがある地域は、家賃が安いんです。なぜかと言うと、工業地域なんです。法律の話になるので複雑なんですが、香港の法律では、この地域、もしくはこのビル、は工業用途と決められていたら、その用途以外では使ってはいけないんです。Hidden Agendaは、音楽の営業はしているけど工業はしていないじゃないですか。なので時間の問題だったとは思うんですが、警察や役人に見つかって、退去してくれと言われるんです。
(香港の地図を見せながら)香港の街の中心がだいたいこの辺ですが、ちょっと中心からは遠いんですよね。でも香港は地下鉄が便利なので、そんなに時間はかかりません。この辺りに、Hidden Agendaもあったし、アーティストがこのあたりに集まりだしたんですよ。家賃が安いのでスタジオを持ったりして。なんでこの工業地域に空き部屋が多いのかと言うと、何年か忘れてしまったんですが、SARS。SARSが一番流行ったのがこの地域なんです。そして、工業もどんどん中国大陸に移っていきました。そういった背景があって空き部屋がどんどん増えて、そこをアーティストたちが使う、と。世界どこでもよくある話ですよね。Hidden Agendaが退去させられる、という問題が出たときに、他のジャンルのアーティストたちがどんどん集まってきました。アクティビストも、メディアアートをやっている子も、デザイナーも、ジャンルを越えて協力しようという姿勢がありました。例えば、マイケル、彼は元々グラフィック・デザイナーなんですけど、HK HONEYというプロジェクトを立ち上げます。彼はHidden Agendaのメンバーではないですが、隣人です。香港のあの高いビルの屋上を使って、養蜂のプロジェクトを始めました。彼もHidden Agendaのメンバーとは友達で、何か問題があれば協力する。彼の養蜂プロジェクトで、ハチミツや蜜ろうキャンドルが作られたりしています。彼は今、ビルの屋上で菜園を作ったりしています。最近は、同じこの地域で、バンドがレストランを始めています。香港は、クリエイティビティに境目がないです。たまたまこのバンドのメンバーが良いホテルでシェフをやっていたと。彼がバンドのメンバーたちと一緒にレストランを立ち上げることになって、今はバンドのスタジオとレストランが同じフロアにあります。そういう、クロスオーバーするような人たちが、この地域に集まってくる、と言う感じですね。これも、日本では「音楽のことは音楽の人がやるのが当たり前」となる。デザイナーの領域に音楽の人は関わってこないし。香港は、狭いだけに、クリエイター達が自分の領域以外のことにも協力するということが多く見られます。
とりあえず、今事例を3つ紹介しました。休憩を取りたいと思います。その間に、zineを回そうかな。
〜休憩〜
Park Daham:香港では音楽の人が音楽だけに関わるのではない、という話などがありました。クロスオーバーするアジアの人たちの背景というか、なぜそうなったのか、自分で旅しながら思ったことはありますか?
これを言っちゃうとおしまいかもしれないんですが、母数が少ない。日本はとてもクリエイター人口が多い。逆に香港や台湾は、例えば、音楽をやっている人口自体が少ないから、音楽関係者だけでやっていても広がりがないんじゃないかと予想してます。あと、これは答えじゃないけど、ひとつ。日本のテレビ界で有名になった、チューヤンっていう香港人がいるんです。彼は、日本のテレビではタレントとして活躍してたんです。私、最近、「そういえばチューヤンどこいったんだろ?」と思って調べたんですよ。ネットで(笑)。そうしたら、彼、実は元々グラフィック・デザイナーだったらしいんですよ。今も、彼は香港でグラフィック・デザイナーの仕事で食ってるらしくて。日本の何かのウェブサイトの「あの人は今?」みたいなコーナーで、チューヤンがインタビューを受けていたんです。彼は、「香港ではマルチな才能があるほうが良いと言われていて。でも日本でタレント活動をしているときに、日本でグラフィック・デザインの仕事もしてみたいって言ったらダメって言われたんですよね」みたいなこと書いてて。グラフィック・デザインをやってみることができなかった、って。誰から言われたのかは知りませんが。でも確かに、日本って専門性がとても大事とされますよね。そして香港は反対。みんないろんなことができたほうが良い、っていう考えが多い。
Park Daham:今、Offshoreでは伝統的なものを無視してはいないと思うんですが、今の動きのみを追っている。それは何故?あと、今後どういう展開になっていく予定ですか?
伝統的なものを紹介しないのは、既に日本でそれをやっている人がいるから。伝統的なものこそ、日本で紹介している人がいる。だから、私がやらなくていいと思っています。例えば。Dahamも良く知っているタイの音楽。このジャンルは、タイの今の20代の人からすると古臭かったりしますね。
「モーラム」というジャンルで、タイの独特なギターを使って演奏する曲。今日の最初のほうに見せたPLOTのようなロックバンド周辺の子たちは、もちろんリスペクトしている音楽ではあるだろうけど、今、好んで聴いているわけではない。日本で言う演歌なのかな。こういう音楽を掘ってる人たちも、日本にはいます。私も聴くことは好きだし、家で普通にモーラム聴いてます。ただ、Offshoreで紹介する必要はないと思っていて、モーラムにもっと詳しい人がやればいいと思っています。モーラムに限らず、伝統的な文化って研究対象になっているしリサーチしている人もたくさんいるので、私は、今産まれてきたリアルタイムの文化をアーカイブしていこうと思っています。
そして、今後の展開ですよね。うーん、ちょっとネガティブに聞こえるかもしれないんですけど、この2年間、アルバイトが飲食アルバイトで、すごいお金なかったんですよね(笑)。なのであまりアジアに行けなくて。記事更新もなかなかできない。誰かに直接会ってインタビューを取る機会もあまりなくて。インターネット上でやるなら、コンスタントに、週1回、月1回、とか、決めて更新したほうがいいなと思ってるんですよ。そんなことを考えていたんですが、このあいだ、紙のzineを発行したんですね。紙だと、もう少しプライベートな内容も含めて、ネット上より自由に書ける。それが面白かったので、もしかしたら、今後、普段の仕事とのバランスも見て、紙のzineをシリーズ化していきつつ、webのOffshoreの在り方を考えるかもしれないです。あ、でも、アジアの小ネタはtwitterでやってます。良かったらフォローして下さい(笑)。
参加者A:さっき、日本もアジアの一部として日本人に認識してもらいたいという話がありました。日本人からのフィードバックはどうですか?
アジアのカルチャーに関するイベントを東京でよくやっていた時期があったんですよね。圧倒的に、東京の人たちが一番アジアに興味を持ってくれています。大阪はあまりアジアのイベントに動員がないかな……。そもそも、今の風潮としては、日本の若い人が海外に興味を持たないらしい。らしい、っていう話ですが。渋谷のタワーレコードに行ったときにびっくりしたことがあって。土曜か日曜に渋谷タワレコに行ったんです。洋楽フロアはガラガラで、でも、日本のポップス、J-INDIEのフロアにはたくさん人がいました。私の友人のレコード屋さんの人たちは、日本人がどんどん洋楽を聴かなくなってる、って言ってますね。音楽はそんな感じですね。例えばデザイン界とかのほうが、日本人は外を向いているかなと思います。あと、私がインタビューを取っているアジアの人たち、ちょっと特殊なジャンルの人たちなんですよね。一般的ではないジャンルを私が紹介しているので、どういうんだろう、ぐっとくるフィードバックはあまりないかなあ……。でも、どうやら、私のサイトは、日本のミュージシャンが一番チェックしてくれているんじゃないかなと。アジアでライブをしたいミュージシャンがネットで検索して、私のサイトに辿り着いたり。あと、大阪のラジオDJさんが、私のサイトの情報を見て、私のサイト上で紹介していたお店に実際に行って、後でブログに書いてくださっていたりとか。そういう人たちは、私の情報を見て、現地に行って「Offshoreの情報を見て行ってきて良かった」と言ってくれたりしています。
参加者B:質問と感想を。アジアのクリエイター達は若くてクロスオーバーするという話でしたが、日本は長期間かけてひとつのことを鍛錬していくので深みが出ると言えるかもしれません。アジアの若い人たちがやっている文化は深みがない、ということもあるのでは?あと感想ですが、Offshoreのコンテンツは非常に面白いと思うんですが、日本語だけだと少しもったいないかなと。韓国や、他の世界各国の人たちにも見てもらえる機会があるともっと良いなと思いました。
うん、ごもっともです!英語でも書こうとしたときがあったんですけど、挫折しましたね……(笑)。英語力がね……。あ、でも、そうだ。twitterは私は日本人向け、と思っているんですが、facebookはものによっては、日英両方で書いているときも……(facebookに実際に日英両語でポストしている投稿を探しながら)……あれ?ないなあ。あ、これこれ!ほらほらほら。
〜会場笑〜
英語で、誰かの考えや細かい話を書くことは大変なので、こういったイベントの告知とか、簡単な情報は英語で書いたりとかしてますね。
そして質問の答えですが、日本は専門性により深みが出てくることに対して、他のアジアは深くない、という。まあ、確かに感じますね。ただ、アジアの若いクリエイターたちは発信力が長けているなと思っていて。日本以外のアジアの人たちは、みんなSNSも使い慣れていて、どういう風に発信すれば人に伝わるのか、よく知っている。例えばその発信力を日本と比べれば、日本はもっと発信力を付けていかないと、と思います。それが、やっぱり、英語でも発信したほうが良い、っていうことにも繋がると思うんですよね。
参加者C:今急に思いついた質問なんですが、英語で発信することに挫折した、という話でしたが、いろんな国に行ってるのにどうやってコミュニケーションを取っているんだろう?と思いました。
あ。英語です(笑)。私はどこ行っても英語を使ってしまってますね。中国語勉強しようとしたんですけど、今ストップしていて。でも、挫折はまだしていない!中国大陸は英語だけだと厳しいので、中国語を勉強したいと思ってるんです。まあ、うん。そうですよね。挫折してんなよ、って話ですよね。がんばります。なんか反省会みたいになってるけど……、自分の記事が、ややこしいんですよ。もうちょっとシンプルな内容にすれば、英語でも書ける。そういうことかな。ありがとうございます(笑)。
参加者D:SUBBEATというアンダーグラウンドのダンスミュージックレーベルをやっています。ソウルでこの前パーティーをやったんですが、日本のSeihoさんや中国からDJやアーティストを呼んできました。このジャンルで、アジアの繋がりを作りたいと思っているんですが、日本ではアンダーグラウンドのダンスミュージック界隈で、そういう動きがありますか?
Seihoさんのやっているような音楽ジャンルのシーンでは、あまり活発ではないんじゃないですかね。日本側からアジアのミュージシャンを呼ぼう、という動きはとても少ないです。日本側主導で「招聘する」という動きが少ないかな。例えば、Park Dahamもそうだと思うんですけど、アジアのミュージシャンが「この日程で日本に行きます」って日本のオーガナイザー達に連絡して、日本でイベントを組んでもらう、っていうのは良くあります。
Park Sunyoung:なんで日本から呼ぼうとしないんですか?
お客さん入らないからかな……。でもフジロックやサマソニは、アジアのミュージシャンを積極的に呼ぼうっていう動きもあります。ただ、特定のアジアのミュージシャンを日本に呼ぶ為に動いているプロモーターは、あまり聞いたことないですね。
正直、個人でアジアのミュージシャンの航空券を払って来てもらう、っていうのは厳しいじゃないですか。でも私としては、アジアのミュージシャンにもっと日本に来てライブをしてもらいたい。なので、水面下で動いていたりはします。自分が直接的にイベントを打たなくても、誰かがアジアのミュージシャンを呼びたくなるように仕向けるというか。でも、私がOffshoreを始めた当時、2011年に比べると、かなりアジアの情報は日本でも増えていますよ。だって、Dahamはdommuneも出てるしね。超有名人ですよ、この人。今、アジアの情報が日本でどんどん増えつつあるから、自分も、勢いに乗っていろんなアクションを起こすときかな?とは思っています。
参加者E:最初のほうで、I’m not hippyと話していましたが、あえてその言葉を強調した意味はありますか?
ソウルではどうかわからないですけど、日本では、ヒッピーのイメージみたいなものがあって、脱原発で田舎暮らししたい人、みたいな。実は私も昔ヒッピーの思想に傾倒されていた時期はあって、田舎暮らししたかったときもあった。ヒッピーになろうかとしていたときがありました、っていう話なんですけど、人間ってすごい酷い生き物なんですよね。これ、何の話なんだろう(笑)。ものすごく深く突き詰めていったら、人間は自然と共存なんてできないよって思って。やっぱり自然を壊しちゃうなと。例えば原発に関しては、今すぐ全部なくすことは私は無理だと思ってる。あ、この話違いますよね……。えっと、ヒッピーって社会から離れちゃうんですよ。元々はヒッピーも良い暮らしがしたいと思っていて、資本主義とか環境破壊の問題を解決する為に自分自身で田舎に移って暮らしたりするんだけど、一般社会の一般の人たちからすると、一般の日常とはかけ離れた生活。そこで何か社会に訴えかけても、社会にコミットしてない以上説得力がない。私は、社会にコミットしたうえで自分の活動を続けたいんですよね。ヒッピーになることは社会に向き合わず逃げることだと思っている。日本では、旅行が好き、と言えば、ヒッピーを連想する人がいるので、敢えてI’m not hippyと書いた、と。すみません。回りくどかったですけど、そういうことです。
〜Park Dahamの締めの言葉があって、終了。〜