この投稿は2012年11月9日大阪・11月12日東京でOffshore企画として上映したドキュメンタリー映画『HIDDEN AGENDA The Move』のその後の展開です。ドキュメンタリーなのでネタバレも何もないと思うのですが、映画を見ずして内容を知りたくないという方は読まないほうがいいかもしれません。でも面白い話です。
関連記事:セルフレポート『香港でライブハウスを運営するということ』東京編
昨年11月にOffshoreが上映した、香港のライブハウスHidden Agendaの過去2回の退去の背景とスタッフがDIYでライブハウスを作り運営する様を捉えたドキュメンタリー『HIDDEN AGENDA The Movie』。
香港九龍にある観塘という地区にあるこのライブハウス。
観塘地区は工業エリアだが、パンデミックとなったSARSや香港内の軽工業が続々と中国大陸に移転した事により、寂れた工業地区となってしまった。どんどんテナントが逃げていく中、観塘地区の大家たちは香港の若いアーティストに安くスペースを貸すようになった。今では、観塘地区はインディペンデント・アーティスト地区という裏の顔を持っている。
だが、香港では、「工業ビルを別の用途で利用すること」が違法だ。1960年代に制定された法律が今も適用されており、いかなる理由であっても工業ビルの一室を倉庫または工業以外の用途で利用する事は法律違反なのだ。つまりは、ライブハウスとしてでなくとも、アーティストが自分のアトリエとして、バンドが音楽スタジオとして、グラフィックデザイナーが作業オフィスとして工業ビルのスペースを借りることは違法なのである。
ライブハウスHidden Agendaも、例に漏れず観塘地区のとある工業ビルの中にある。「音楽興行を行なっていてビルの用途に沿っていない」から、Hidden Agendaは違法だというわけだ。
では、なぜ香港のライブハウスHidden Agendaやアーティストたちはわざわざ違法であるのに観塘の工業ビルのテナントを借りるのか。理由は、家賃が安いからだ。香港は今では東京よりも家賃が高いと言われる。ここ数年の家賃高騰は常に香港の人たちを悩ませる。家賃が払えず路上生活をしているホームレスは多い。ホームレスと言えば無職のイメージが強いと思うが、香港の場合は、職があってもホームレスにならざるを得ない状況だ。
先日の上映会で、Hidden AgendaのKimiに「例えば、香港の渋谷とも言えるコーズウェイベイにHidden Agendaと同じぐらいのサイズ(※現在はオールスタンディングで約300名収容)のライブハウスを持ったとしたら、家賃は月いくらぐらいだと思う?」と聞くと、「約100HKD(1,000万円)ぐらいだね。」とのことだった。
先日は、あの大企業マクドナルドのチムシャーツィーにある店舗が家賃高騰により立ち退いたとのこと。
以下、香港で長くタレント活動をされているりえさんのブログより引用。
Go!Go!Hong Kooooong! – ジャパナビりえ的香港TV道
ここ10年間での不動産の上昇率、もはや狂気の沙汰。
SARS後(2003年)には、あんなに大暴落したのに。
あの時に借金してでも不動産買っておけば今頃・・・というのは
投資センスがない香港在住者みんなが言ってること。(わたしとか)そんな家賃異常高騰により個人商店などの閉店が相次いでいます。
お客さんが入ってる茶餐廳でも閉店してます。家賃が高すぎるから。
尖沙咀では先月、ネイザンロードと山林道の交差点に25年間あった
大きなマクドナルドが閉店しました。
マックでさえ「やってられるか!」と立ち退くしかない
契約更新時の家賃高騰がどのくらいのものかっていうと
65万ドル/月が一気に220万ドル(約2200万円)だよ。
また、いまやアジア全域の注目を集める香港インディー音楽ショップWhite Noise Recordsも、かつてゆったりとソファでくつろげる店を構えていたが、あるとき家賃が60%も値上がりしたことを受けて、約15平米ほどの店舗に移転した。
骰子の眼 – webDICE:香港サブカルチャーの現在をのぞく─インディーズ音楽市場、映画産業が抱える問題「家賃が60%も上昇!」
狭い土地に膨大な人口が暮らす香港、アジアの金融都市でもあり、家賃は今も値上がりを続ける。そういった背景があって、家賃が安く比較的都心へのアクセスも良い観塘地区にアーティストが集まりだし、また、アーティストが集まりだしたためコミュニティから発生するクリエイティビティも多く、創作活動をする人たちには愛されている街が観塘なのだ。(ただ、それ以外では廃墟のようなビルが続く地域で、観光も買い物も散歩も適さないような場所だ。)
ここからは特にHIDDEN AGENDA The Movieの中で触れられる話。(ネタバレが嫌な人はここからは見ないことをおすすめする。でも大事な話なんだけど。)
香港政府は、ビルの利用条件に反しながら堂々と活動をしているライブハウスHidden Agendaに退去勧告を発する。そして、政府はこの錆びれた観塘地区を“工業エリア”から“商業エリア”に変えるプロジェクトを進めている。
すでにいくつかのビルを商業ビルにするため新しいビルオーナーを募りビルの利用条件を変えている。(だが、Kimiや観塘にいるアーティストによると、どうもうまく進んでいないらしい。)
『再起動九龍東』と名付けられたプロジェクトもこの一環である。文字通り、香港九龍半島の東に位置する観塘地区を再起動させるために、政府はショッピングモール建設や音楽イベントの計画をたてている。
その音楽イベントに、政府はHidden Agendaを誘ったのだが、Kimiが代表するHidden Agendaは拒否した。理由は、「その政府の誘いに乗れば、他の違法でビルを利用しているアーティストはどうなる?政府はこの地区を商業地区にすることで活性化しようとしているけど、私たちはクリエイティビティでこの地区を活性化しようとしているつもりだ。」
そして、ここからが今回の本題。(長くてすみません。)
『再起動九龍東』が動き始めた。
本題の元ネタ記事はこちら。
主場新聞:起動九東音樂會 遭樂圈杯葛
再起動九龍東の一環として行なわれる音楽イベント『YOUTH BAND MARATHON 2013』の開催が2013年1月20日に決定。
出演者公募が始まり、多数の香港ローカルバンドが応募した。
The3Thinkというバンドが『YOUTH BAND MARATHON 2013』のfacebookイベントページを立ち上げた。
そのイベントページをシェアする形でKimiがfacebookに投稿。
恥ずかしながら、私は広東語も北京語もわからないので、上写真のKimiによるコメントのfacebook上のbingによる直訳をテキストとして掲載しておく。(忠告するが、機械翻訳なのでめちゃくちゃだ。ほどほどに参考にしてほしい。)
Band members: If your band rehearsals, why you want to participate in the destruction of both original art project in Kwun Tong? What the Wild East Kowloon starting? What the wild live chemical HA? Chemical Department of Xiamen to facilitate acquisition, accelerate reconstruction, starting shop in Kowloon East nice road.
East Kowloon starting today of a demolition worker, shopping center is planned. Starting in East Kowloon and want to play General have stirred culture of future clearance you can significantly: “ecological reservation in Kwun Tong”.And strongly kick your way.
Department of Home Government handout “flyover” so you, doing what all of them fall to participate in? Music on ecological survival in my both hands, each band Bayan, resisted by action starting in East Kowloon.
要は、「観塘の工業ビルでバンドの練習・リハーサルを行っているなら、どうしてYOUTH BAND MARATHONに出演しようと思うのか?今まで観塘工業エリアをクリエイティビティによって活性化してきた行為と、矛盾していないか?ビルの別用途での利用を取り締まる側に追い風を送る行為だ。政府は、観塘地区を商業エリアに変えて活性化させようとしている。私たちは香港から消えた工業に取って代わってこの地区でクリエイティビティを育み、私たちなりに活性させてきたつもりだ……」というような意味。
facebook上で観塘のアーティスト中心にこのKimiの投稿がシェアされる。
そのKimiから始まり観塘のアーティストによってfacebook上でリレーされた言葉が、YOUTH BAND MARATHON 2013での演奏が決まっていたバンドに届き始め、(その間たった1日)いくつかのバンドが出演を辞退し始めた。
ゲストとして出演するはずだったThe3Thinkも出演を取り止め。The3Thinkによって立ち上げられていたYOUTH BAND MARATHON 2013のfacebookイベントページは現在「更新中…」となっている。
http://www.facebook.com/events/348147288626758/
そして何とも興味深いのが、このYOUTH BAND MARATHON 2013の行なわれる2013年1月20日、同じ場所で、
游擊show
ゲリラライブ
が行なわれるという。
そのゲリラライブのfacebookページがこちら。主催者も出演者も不明。
https://www.facebook.com/events/540412172638095/
見事に、場所と時間が一緒だ。いったい1月20日、何が起こるのだろうか。
ゲリラライブ=ケンカを売る行為と捉える人もいるかもしれないが、映画本編にもあったように、彼らは相手が警察でも役人でも罵ることはしない。しっかりと会話をする。お互いの利害や主張を理解しようとする。そして、ただひたすら怒りを主張することでは多くの人に届かない。主張するときにはユーモアを取り入れるのが香港人流。香港人の素晴らしいキャラクターだ。おそらく、参加した人を楽しませるゲリラライブとなるであろう。
ご存知だろうか?香港の人たちは、自由という権利を必死で守り、中国共産党を敵視している。だが、Hidden Agendaにはほぼ毎月のように中国大陸からのアーティストが演奏しに来ており、香港と中国は、インディー音楽によって親密な関係を築いている。
ちなみに今回は、マカオの音楽ショップPinto Musicaのfacebookグループでこのネタを見つけて、Pinto MusicaオーナーのAnsonに記事の要訳をしてもらった。Ansonありがとう。
11月のHIDDEN AGENDA The Movie上映会では、観た人それぞれが違う感想を持っていたことだろうと思う。この一件に関しても、読んでいただけた人それぞれが違う感想を持っていただければ私としては書いた意味がある。そしてこの話をネタに日本のどこかで誰かと会話してもらえればうれしい。
2013年1月5日・追記
遊撃=ゲリラライブのイベントページが変更。URLは以下。
https://www.facebook.com/events/322297774541397/
出演者の詳細がアップされ始めた。場所は変わらず、YOUTH BAND MARATHON 2013と同じ。